シーズン直前
週刊特別企画Part2

往年の名チャーター・ボート
『BLACK BART』に学ぶ
そのマネージメントと
ハイテクニック(2) 
岩城寛治

バート・ミラー、その人


「BLACK BART」のチャーター料(1日900ドル、トーナメントの場合は1000ドル)は、一般チャーターボートの倍だ。飛行機にファーストクラスがあるように、フィッシングボートにもファーストクラスがあってもおかしくない。しかしボートの大きさやキャビンの雰囲気が格別デラックスというわけではなく、デリーシャスな飲食物が用意されているわけでもない。やはり“釣りの天才”とか、“記録男”と異名をとるキャプテン、バート・ミラーの輝かしい実績と、巧みなマネージメントが大きな付加価値になっていることは否めない。そこで他のボートとくらべて一味違う「BLACK BART」の“偏差値”を探ってみた――。

16インチのギャフで巨大マーリンの予感

 前回ご紹介したように「BLACK BART」の磨きあげたデッキとキャビン、最高のタックルと装備、そしてクルーの徹底した職務分担と規律のよさ……、バートの巧みなマネージメントはお客の優越感を満足させ、来るべきマーリンとのファイティングに心強さを与えてくれる。
 たとえばフライングギャフだ。
 「16インチ(最大)を2本揃えているよ」
バートは誇らしげにキャビンの奥を指した。
 さて出港すると、さっそく若いクルーがキャビンからかついできた2本のフライングギャフに、まだロープはセットされていない。
 クルーはおもむろにギャフのフックをデッキに置く。ビギナーでなくても、あらためてその大きさに眼をみはるだろう。(写真参照)
 クルーはまるでセレモニーの司祭のような慎重な手つきでギャフにロープを結ぶ――見とれたお客は今日こそ格別大きなマーリンが釣れるような予感におそわれて胸ときめかすというわけだ。
 結び終わると両舷にギャフを置いて、ロープは柄の下に完全なうず巻きにしてキチンと置く。これで一段落なのだ。
 やがてルアーを流し始めると、両方のロープの端を引き出してファイティングチェアの足に結び、両舷に直角の一直線で柄の下に延ばす。一発即戦の態勢だ。
 たかだ1本のロープの置き方にも“馬鹿”がつくほどていねいでカッコウをつける――高級ホテルかレストランの心憎い手口?、いや「BLACK BART」の巧みなマネージメントの一つだろう。


フライングギャフのフックにロープを結ぶのもショービジネス?




巧みなマネージメントで完璧のチームワーク

 マーリンが釣れるのは決して偶然性だけによるものではない。
 マーリンが回遊している海域を探し当てて、潮に適合したルアーを最高のコンディションで流す。また状況によってライブベイト(生きエサ)、デッドベイト(死んだエサ)の使いわけなど、ボートキャプテンの適確な判断と緻密な行動作戦が必要だ。
 私が乗船した5日間、出勤(?)してきたキャプテン、バート・ミラーはいつも愛用のベンツから小汚いビニール袋をとりだしてボートのクーラーに放り込む。袋のなかには冷凍のオペル(ムロアジの一種)かサバが5〜6尾、デッドベイト用だ。
 次にキャビンのなかの引き出しを物色する。何10本ものルアーのなかから5〜6本のルアーを慎重に運び出し「きょうはまずこのルアーを流してみますよ」まるでフランス料理店のソムリエがワインをすすめるかのように提示してみせた。
 選んだルアーはさらに1本1本丹念にチェックし、ときには慣れた手つきで惜しげもなくスカートを取り替えてみせる――これもお客が見とれるショービジネスである。
 バートは4本のルアーを中年のクルーに渡すとき、それぞれのルアーの流す順番まで細かく指示するのには驚いた。
 バートと2人のクルー、たった3人の職場といえども職務分担が規律正しく守られている――バートの巧みなマネージメントは、ただの見せかけだけではないようだ。トローリングはチームワークの釣りだからである。
 たとえばマーリンがストライクしたとき、即応する操船、他のラインの巻きあげ、そしてリーダーのキャッチ、ギャフ……、チームワークがぴったりと機能しなければ、マーリンを釣り上げることはできないからだ。(つづく)


いつもキチンと整理整頓

バ−トお手製ルアー群

小生の足がつまずいて歪んだロープはこの直後すぐに直された


ルアーを手直しするバート・ミラー

自慢のルアーを見せるバート・ミラー

ティーザーはマーリンの歯形だらけだ


SPORT ANGLERSトップページへ

1. 巨魚に魅せられた男達―洋上の系譜

 チャールズ・フレデリック・ホルダー―時代を創ったアングラー
 ゼーン・グレイ(1)―オフショア・スポーツ・フィッシングのパイオニア
 ゼ−ン・グレイ(2)―子供たちが父に贈った一冊の本
 ゼ−ン・グレイ(3)―豊穣の航海、黄金の日々
 アーネスト・ヘミングウェイ(1)―『海釣り(Salt Water Fishing)』への序
 アーネスト・ヘミングウェイ(2)―PILAR, THE FISHERMAN

 アーネスト・ヘミングウェイ(3)―キーウエストのヘミングウェイ
 マイケル・ラーナー(1)―IGFAの立役者
 マイケル・ラーナー(2)―IGFA会長 ラーナー氏来日
 
明るく、やさしく、上山草人
 9ビルフィッシャー高橋一郎の全記録

 番外編・トップアングラー10傑
 Capt.バート・ミラー物語(1)(2)(3)(4)(5)(6)
 BLACK BART―そのマネージメントとハイテクニック(1)(2)(3)(4)

第2章第3章第4章第5章第6章第7章第8章第9章第10章