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シーズン直前・週刊特別企画Part2 往年の名チャーター・ボート『BLACK BART』に学ぶ |
| 釣りは心意気だ 1日じゅうルアーを流して1回のヒットもないことは、ハワイでもよくあることだ。アタリすらもないトローリングほど退屈なことはない。 初めエキサイトしていたアングラーたちは、やがて交す言葉も少なくなると、ボートの単調なエンジン音が子守唄になってしまう。 アングラーがキャビンでいびきをかき始めるとボートのクルーはいっそうやる気をなくしてしまう。 終日同じルアーを流し放しでクルーまで昼寝してしまうようなボートは最悪、こんな船に乗るくらいなら、むしろショーとディナー付の“サンセットクルージング”にでも乗船した方がよほど安くて楽しい。 どこでも釣りは船頭の腕次第、マーリンを釣りたければ、いちばんよくマーリンを釣っている“釣らせるボート”を選ぶことが肝心なのはいうまでもない。
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「BLACK BART」はさすがであった。少なくとも40〜50分に1回はルアーを巻きあげて手にとって丹念にチェック、キャプテンの指示があれば他のルアーと取り替える――実際には大変面倒くさいことであるが、クルーの小気味いい機敏な動作は“なにがなんでもヒットさせたい”という頼もしさと心意気を感じさせるのだ。 果して3回ヒットし、2回はばらしてしまったが、やっと小型ながら168ポンドというマーリンを釣った。 しかしそのとき、たとえ“坊主”に終ったとしても、クルーの努力に免じて、寝ざめの悪い“遊覧船”より気分はさわやかだろう。 |
| ルアーで駄目ならデッドベイトだ 「BLACK BART」のパフォーマンスぶりはそれだけではない。 その日どうしてもルアーにヒットせず、刻々と焦燥感におそわれているときだった。 フライングデッキから下りてきたバートは「マーリンはルアーを食べものと思っていないんだよ。ただ好奇心で寄ってはくるがルアーと遊んでいるだけ……。こんどは一発大物をねらってみよう」 と如才なく説明して、クーラーから3尾のサバを取り出すとデッドベイトをつくり始めた。 |
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サバでデッドベイトをつくる
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3匹のデッドベイトをリーダーに取り付ける
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その1尾は口の中から両眼の間にフックを刺し、残りの2匹はベイトニードル(ライブベイト用の針)をアゴの下から左右の鼻孔へ通し、歯の掃除に使うデンタルフロスで口をしばった。 まずリーダーにフックのついた1尾を、続いて残りのノーフックの2尾を1メートル余りの間隔を置いて取り付けると海に流した。 ルアーにくらべて船速は遅いが、3尾のデッドベイトは航跡のなかを縦1列に並んで、ピョンコ、ピョンコと交互に頭を持ちあげながらいじらしく泳いでくる。 後の2尾をノーフックにしたのはマーリンの試食に供し、油断させて3尾目で勝負というわけだ。 あのマーリンが海を切り裂いて……いまに来るか? 今に来るか? ……その一瞬への期待もそろそろ退屈し始めるときだった。 |
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| ライブベイトに新兵器登場!? 突然エンジンが止まった。中年のクルーのサドゥが 「ライブベイト!!」 と叫びながらフライングデッキから慌しく駆けおりてきた。 サドゥは流していたデッドベイトを手早く巻きあげると、若いクルーのダナが用意したスピニングリール付の細手のロッドでカツオ釣りを始めた。 |
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続いてダナがキャビンの奥から抱えてきた長さ約80センチ、直径20センチほどの塩ビ管にわれわれは首をかしげた? ダナは塩ビ管をデッキの隅に立てるとその上にバスタオルをかけ、海水をポンプアップするパイプを塩ビ管の下に接続した。 「なにに使うの?」 聞かれたダナは人さし指を口に当てて首を横に振りながら 「いまにわかるよ。しかしこれはぜったい秘密だよ」 なにか秘密兵器に違いない。私は以前にバートが 「ライブベイトを生かして入れておく容器を考案したよ」 といったのを思い出し、すぐにそれと判断した。 その通りであった。サドゥはカツオが釣れると、いとも大事そうに塩ビ管のなかに頭から入れた。 |
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| ハワイ艦隊の“イージス艦”? 塩ビ管は下のパイプから絶えず送られる海水が上に溢れ、かぶせたバスタオルを伝って流れ出る。 なかのカツオは逆立ちして身動きもままならないが、絶えず海水を吸い込んでいるので泳いでいるときと同じ道理だ。 たかが塩ビ管、その仕掛けを“秘密兵器”とは大げさ過ぎるかも知れない。しかし私はいままで数多くのいろんなボートに乗ってきたが、ついぞお眼にかかったことのないしろものだ。とかく考案発明というのは、タネを明かせばこんなものかも知れない。 ライブベイトはもっとも釣れる確率の高い釣り方であるが、ライブベイトが欲しいときにすぐ釣れるものではない。たった1尾のライブベイトを釣るのに数時間もかかることも珍しくない。運よく魚群に出会うと入れ食いで釣れるが、船の生け簀(す)に入れてもすぐに弱ってしまう。 だからルアーはライブベイトの代用品として開発されたものだ。ライブベイトを保存するということはビッグゲームのクルーやアングラーたちの夢であった。 やはり「BLACK BART」はフィッシングボートの“イージス艦”である。 |
| グッドアイデア!! ゴム風船 さてサドゥは2尾目のカツオを釣ると、すばやくライブベイトにして海に放した。 ここでもまた「BLACK BART」の一味違うオリジナルな釣り方を見た。それは奇抜ではあるが、まぎれもなく適確を期すためのグッドアイデアだ。 |
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サドゥはライブベイトの泳ぎにまかせてラインを送り込むと、ローラートローラーにラインをはさんだ。もちろんルアーの場合よりローラートローラーの調整をうんとゆるくしたに違いない。続いてさらにラインを20メートルほどドロップバックさせた。 そこでサドゥはゴム風船をテニスボールほどにふくらませると、ローラートローラーの近くのラインに結びつけた……? やがてマーリンがヒットした。マーリンがライブベイトをくわえて泳ぎ出すと、ローラートローラーからラインはゴム風船と一緒にすっ飛んで海に吸い込まれていく――。なるほど、ゴム風船がついているのでヒットしたのがわかりやすく、マーリンが泳ぐ方向も確認しやすいので、いち早く適確なストライクのタイミングと操船を可能にすることができるわけだ。 ビッグゲームの“How to編”を見るようなあの手、この手のショービジネス(?)、これでは他より若干のギャラアップもいた仕方がないというものだろう。 その羨望あってか、地元の一部で「BLACK BART」が悪評高いのは、エンターテーナー、いやキャプテン、バート・ミラーの卓越したプロフェッショナリズムが諸刃(もろは)の剣になっているのかも知れない。 ともあれ、凛々しい規律のなかにこそ“一流”が育ち、あくなき努力と合理性のなかにこそ“天才”は生まれるのだ。(つづく) |
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