シーズン直前
週刊特別企画Part2

往年の名チャーター・ボート
『BLACK BART』に学ぶ
そのマネージメントと
ハイテクニック(最終回)

岩城寛治

さて前回まで「BLACK BART」の心意気とパフォーマンスにあふれるテクニックについてご紹介した。今回はキャプテン、バート・ミラーとの質疑応答、すなわち“聞きかじり”をまとめてみた。したたかなマーリンキラーは“汝の敵を愛せよ”とばかりに、マーリンへの愛情もこめてマル秘のテクニックを語ってくれた。


これで連続11匹のマーリンを釣った!?

――マーリン(カジキ類)の釣り方にはいろいろな方法があるが、バートのとっておきのマル秘テクニックを教えてもらえないかね?
「デッドベイト(死んだ魚を餌にしたもの)を引きながら、コマセで寄せるのが最高の方法だよ。しかしハワイではコマセは禁止になっているから実際にはやれないけどね(笑)」


バートの家に飾ってあるマーリンのマウント
――冗談なしで実際にやれる方法で最高の方法だよ。
「OK! まず軽いルアー、できればソフトヘッドがいいね。それにフックを付けないで2〜3個引くんだよ。ルアーだからボートのスピードは10ノットぐらいだね。暫くしたら残りのラインにデッドベイトをつけて流すのさ。もちろんデッドベイトは6ノットぐらいのスピードで流すのが常識だからといってボートのスピードを落としてはいけない。スピードを落とすとマーリンは食わなくなるからスピードを変えないことが大事だよ」
――信じられないような話だね。
「マーリンはルアーを見て魚とは思っていない。だから食べものとも思っていないよ。ただ変なものが泳いでいる?と好奇心で寄ってくるだけさ。ちょうど猫がじゃれるように、ルアーをビルで触ったり、叩いてみたりして遊んでいるのさ。そこでマーリンを安心させておいてから、ルアーをデッドベイトに変えて食わせるのさ」

――10ノットのスピードでデッドベイトがちぎれてしまわないかね?
「長いこと引いているとデッドベイトの傷みは早いね。そのときは船速を6ノットにして最初からフックを付けてないデッドベイトを引くのさ。するとマーリンはデッドベイトに食いつくよ。そこで急いでフックの付いたデッドベイトと差し替える――このやり方で続けて11匹のマーリンを釣ったことがあるよ」

餌の魚群が泳ぐ速度で“ベイト”を選べ!

――するといままでバートが釣ったマーリンは、殆どがデッドベイトで釣ったの?
「いや、ルアーとベイトと同じぐらいの打率かな。もっともベイトといってもライブとデッドの両方を使い分けているけどね」

――基本的にルアー、ライブベイト(生きた魚を餌にしたもの)、そしてデッドベイトと3つの釣り方があるが、バートはそれをどのような条件で使い分けるの?
「潮流が速いときはルアーしかないよ。それとコナ沖では、潮が沖へ吐き出すときはライブベイトで釣れない。ルアーの良さは引くときにボートのスピードが出せるから広い海域を探ることができる。また大型マーリンが釣れる確率が高いが、バラシも多いね。それでも20回ヒットすれば少なくとも5尾は捕るよ」
――ライブベイトにするか? デッドベイトにするか? それはどうやって判断したらいいだろうか?
「トリヤマを見たことがあるね。そのときトリヤマの下には何千尾という魚がいるが、3分後にはもうそこにはいなくなってしまう。またすぐに何百ヤードも離れた海域で再び魚群を発見することがよくある。そのとき魚群の動く方向と泳ぐ速さを見極めなければいけない。もし魚が8ノット以上の速さで泳いでいたらルアーを使うべきだよ。魚が6ノットぐらいのスピードに落ち着いたら、デッドベイトを付けて同じスピードで引くといい。3ノット以下の遅いスピードだったら、ライブベイトで同じスピードでゆっくり引くことだよ。
 ライブベイトは魚が非常に遅いリズムの場合に最高の答えだよ」

――バートの最も得意な釣り方は?
「やっぱりベイトかな? ルアーではすでに1600ポンドクラスを釣ったから、これからはできるだけベイトでやろうと思っているよ。ライブベイトはバラシが少ないのでストライクさえすれば殆ど捕れるが、小さいマーリンが多いね」
――いままでライブベイトで釣ったマーリンの最大は?
「ミロリー沖でかけたのはでかかったよ。130ポンドのリールのラインがすごい速さで出てしまった。それを我々は20ノットで追跡して、リールにいくらかのラインを残し、3時間のファイティングのあげくバラシさ。2000ポンドはあったよ」

死を賭けたマーリンのファイト!

――そのマーリンはまだどこかを泳いでいるのかね?
「恐らく死んだだろう。惜しいことをしたよ。ファイトしたマーリンは全力をふりしぼって抵抗するので、体が酸性になって死んでしまう。30分以内のファイティングでも90%は死んでしまうらしい」
――それじゃ、タグ&リリースは意味がないということになるね。
「やらないよりやった方がいいだろうが、タグしてからどのくらい長く生きるかね。しかしマーリンを殺すなら殺すでいいけど、スポーツとして殺すのはおかしいね。スポーツフィッシングなどといって殺すのはね。とくにライトタックルなどはハリで突いて突いて突き殺すようなもので、マーリンを馬鹿にしたもんだね。するとライブベイトはほとんどがマーリンを殺す釣り方だが、ばらしの多いルアーの方がいくらかマーリンの保護にはなるね」
――でっかいマーリンは、魚体のどこにギャフを打てばいいの?
「小さいヤツは胸ビレの下に1本打てばいいが、中型なら背の中心に1本、そして頭に1本打つよ。でっかいヤツは背だけでは身がこわれてしまうから頭にも打って弱るまで待つさ」
――バートのルアーは全部シングルフックだが、どうしてダブルフックを使わないの?
「シングルの方が完全にフックアップするからだ。ルアーを食ったときにハリ先が口の外側にがっちりと掛かるからね」


バート夫妻と著者夫妻
最後に

 その頃(1986年当時)、バート・ミラーにぜひ会ってみたいと思っていた。
 しかしいつも“バートを取材すると高い金をとられるよ”、“評判がよくないからやめた方がいいよ”などと善意で無責任な第三者の独断と偏見に惑わされていた。
 ところが案ずるより生むがやすし――ままよとばかりにバートに直接電話したところ2つ返事でOK、バートはわざわざホテルまで訪ねてきてくれた。
 ホテルの部屋の入口に現れた名にし負うキャプテンは、意外や中肉中背、眼のやさしいフツーのおじさんであった。

 もっと私を驚かせたのは、彼は入口で靴を脱いで揃えたことだ。海外のホテルで私の部屋を訪ねてきた外人は数知れないが、靴を脱いだのはバートが初めてだった。
 そして彼の自己紹介も忘れ得ぬものだった。
「私の今があるのはタチバナさんのお蔭です。タチバナさんは私の人生を変えてくれた恩人です……」
 当時、世界のビルフィッシャーに名をとどろかした大キャプテンならば、なかなか言えた言葉ではない。
 1968年、そして1972年、バートのボートは年間100匹以上のマーリンを釣って輝かしい記録を樹立した。

 このときハワイのスキッパーたちを驚かせたのは、釣ったマーリンの40%近くをデッドベイトで釣ったこと、これは従来のハワイの釣り方では考えられないことだった。
 これは、バートがかつてフィジー、オーストラリア、そしてニュージーランドと武者修業した成果と思われる。しかしグレートバリアリーフのような大きな暗礁が無いハワイではベイトになる魚種も少なく、入手しにくい。
 しかし敢えてチャレンジしようとするバートの心意気にはフロンティア魂を感じさせるものがあった。
 さて「BLACK BART」の一味違う“偏差値”をどう評価するか? それはあなた自身である。

バートの家に飾ってあるターポンのマウント


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