太平洋のクロカジキ資源について魚崎浩司(うおさきこうじ 遠洋水産研究所浮魚資源部) |
| 1.はじめに 大西洋に生息するニシクロカジキを含めると、クロカジキは三大洋に分布し、延縄、流し網、突きん棒、旋網、およびスポーツフィッシング等で漁獲されるが、まぐろ延縄による漁獲が最も多い。本種はかじき類の中で最も大きくなる種のひとつであるが、かじき類の中でもその商業価値は比較的低い。1950年代後半ごろ一部の海域では重要魚種のひとつとされていたころもあったのだが、その後まぐろ類が刺身用として利用されるようになるとその混獲魚種としての性格がいっそう強まった。また本種は太平洋での漁獲量が多く、三大洋のクロカジキ全漁獲量の60〜80%を占め、毎年1〜3万トン漁獲される。ここでは主として太平洋のクロカジキについてその生物学および資源について述べる。 2.クロカジキの漁獲量 FAOの統計によると1965年から1991年までの太平洋でのクロカジキ漁獲量を国別に示すと図1のようになる。これによると各国の漁獲量は、日本がもっとも多く7000トンから1万6000トン、ついで台湾が2000トンから近年急激に伸びて1万トン、この2カ国で漁獲のほとんどを占めるが、近年フィリピンも漁獲量を伸ばしている。これら以外の国も含めた各国の合計では、年間9000トンから2万4000トン漁獲されており、1965年から1970年代前半ぐらいまでは減少傾向であったがそれ以降増加傾向を示している。 |
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信頼性の高い部類に入るFAOの統計もクロカジキについては疑問点が多い。まず1975年ぐらいまで日本以外の国の数字がない。これはおそらく漁獲がなかったのではなく、報告されなかったためと思われる。次に日本の漁獲量についてであるが、日本の公式統計である漁業養殖業生産統計年報(以下農林統計という)の中ではクロカジキ、シロカジキを合計した「クロカジキ類」として取り扱われている。そして日本の延縄漁業は太平洋においてシロカジキを少なからず漁獲しているにもかかわらず、FAO統計には太平洋シロカジキの日本の漁獲がほとんど報告されていない。すなわちFAO統計における「日本のクロカジキの漁獲量」にはシロカジキの漁獲が含まれている可能性が高く、その漁獲量を過大評価していると思われる。また、台湾の1988年以降の漁獲の急激な伸びは、台湾の遠洋延縄漁業の動向から考えると非常に不自然で、何らかの理由で過大評価されている可能性が高い。 |
| 1965年以降の農林統計を集計すると、インド洋および大西洋を含む日本のクロカジキ類(シロカジキを含む)の漁獲は遠洋、近海および沿岸のまぐろ延縄がそれぞれ6000〜2万8000トン、2000〜3000トンおよび100〜1600トンとなっている(図2)。これらを合計した延縄漁業による漁獲は総生産量のおよそ90%に相当し、日本ではクロカジキ類はほとんどが延縄で漁獲されている。遠洋マグロ延縄以外の漁業による漁獲はそのほとんどが太平洋での漁獲なので、太平洋では延縄漁業による漁獲の割合はやや小さくなるが、それでも60%から80%を占めると推定される。延縄以外では流し網、突きん棒およびその他の釣による漁獲はいずれも数百トンからせいぜい千トンにすぎない。 |
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| もう一つのクロカジキ漁業国である台湾について、その公式統計である漁業年報を集計してみると、年によって変動があるものの50%〜90%がやはり延縄で漁獲されていることがわかる。 |
3.クロカジキの生物学的特性![]()
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| クロカジキの地理的分布を日本の延縄漁業の釣獲率の地図(図3)でみてみると、クロカジキは北緯40度付近から南緯40度付近まで非常に広い範囲で分布するが、そのなかで高密度に分布するのが北緯20度付近から南緯25度付近までである。 クロカジキの系群構造に関する情報はあまり多くない。西川ら(1985)によれば太平洋のクロカジキの稚魚の出現は、西経130度以西の赤道をはさむ南北20度の広範囲にわたる。そして稚仔の出現は赤道付近では少なく、赤道近海を隔ててその南北に分かれる傾向が見えるとしている。また中込(1958)は西部太平洋のクロカジキの釣獲率と平均体長を用いて、赤道をはさんだ南北回遊を示唆している。本種についてmt-DNAを用いた系群解析の結果がいくつか報告されているが、いずれも太平洋のクロカジキと大西洋のニシクロカジキの間での遺伝的差異が検出された、というところでとどまっている。これらの結果では標本数が少ない、あるいは採集された標本が広いクロカジキの分布を十分カバーしていないため、太平洋内での系群構造に関する検討を十分にできないのである。いまのところ太平洋のクロカジキの資源構造は単一であることを否定する有力な証拠はないようである。 クロカジキは、シロカジキやメカジキと同様、雌の方が雄よりも大型になることが知られている。Skillman and Yong(1976)の体長組成に現れるモードを基にした解析では、4歳までは雌雄の成長速度は同じで、1歳で82cm(尾叉長)、2歳で145B、4歳で250Bとなる。その後、雄は成長速度が鈍り、最大300から370cmに達するだろうとしている、一方雌は4歳以降も成長速度をそれほど減少させずに成長する。 |