新連載

ビッグゲームを取り巻く環境と制度について
第9回

牧野光琢


米国の環境NGO
はじめに
前回までは公共信託法理など、アメリカの環境保全の理念をご紹介してきました。アメリカをはじめとする多くの国々では、この環境保全のなかに、海の生物資源の保全も含まれています。そしてそこでは環境NGOが非常に大きな活躍をしています(たとえばThe Billfish Foundationも大きな意味で環境NGOのひとつです)。今回は、アメリカの環境保全において環境NGOがどうして社会的に大きな役割をはたすようになったのか、そのロジックを考えてみたいと思います。

環境保全に関する法と訴訟
たとえば、環境保全なり資源管理に関してある法律があり、そこに国の義務にかんする規定があるとします(「国は……をしなければならない」など)。そして国はその義務を果たしていないとします。しかし、環境NGOや市民オブザーバーが国を相手取って訴訟を起こすためには、その法文上の規定だけでは実際的な意味がありません。
まず、自然環境の悪化など、その法に明記されている政府の義務が果たされていないことを立証するだけの、専門的な知識や技術が必要です。これは実際には、その専門の研究者に依頼せざるを得ないでしょう。同時に、調査を行い訴訟を遂行していくだけの資金が必要です。専門の弁護士も雇わなければなりません。つまり、その環境NGOに億万長者のパトロンがついていないかぎり、単なる市民団体では訴訟費用の捻出も研究者の雇用も困難であり、法律は実際上の意味をもたないのです。
では、アメリカで盛んに活動を行っている環境NGOはどうしているのでしょうか?その仕組みを考えてみましょう。まず税制上、寄付行為が優遇されるという点があります。この点に関しては日本も近年徐々に改善されつつあるようです。また、前回ご紹介した公共信託法理により、国の責任が非常に明確になっているという点もあります。さらにもうひとつ、日本にはない、非常に重要な意味を持っている制度があります。それは、集団訴訟制度とよばれるものです。



集団訴訟(Class Action)制度
この制度は非常に重要であり、私の考えでは、この制度こそが社会におけるNGOの活動内容をきめるものです。この制度は集団で訴訟を行う場合の原告適格(訴訟において原告として訴訟を行い判決を受けることの出来る資格。訴え自体が有効であるための条件)に関するものです。つまり、環境NGOなどの団体が、原告として国を訴えるための必要条件なのです。
アメリカでは、NGOなどの団体が訴訟を起こすときに必要な条件がとてもゆるいのです。アメリカの最高裁判決によれば、その条件は大まかに、@訴訟の目的がその団体の活動目的にあっていること、A訴訟において展開する主張や求める救済の内容が、法廷にその団体の全メンバーが出席しなくても済むような内容であること、Bメンバーはいずれにせよ自分たちで訴訟する意思があること、の三つさえ満たせばよいとされています (Hunt v. Washington State Apple Advertising Commission, 432 U.S. 333 (1977))。特にAの条件が、日本に比べて非常に融通のきく、使いやすいものなのです。そしてこの集団訴訟制度によって、アメリカでは日本よりも簡単に、環境訴訟を起こすことが可能となるのです。



環境NGOの規模
さらに、日本の環境NGOと比較したときにもうひとつ重要な違いがあります。それは会員数の違いです。アメリカの環境NGOは非常に大規模です。たとえば、ナショナル・オーデュボン協会の会員数は60万人です。WWF USAの会員数は120万人です。かの有名なグリーン・ピースUSAはなんと400万人の会員がいます。それに比して、日本ではもっとも大きなNGOでもおおよそ5万人ほどです(WWF Japan、日本野鳥の会)。つまり、アメリカの環境NGOは会費収入による資金力がまず非常に大きいのです(さらにグッズ販売による収益もかなり大きいようです)。その強大な資金力によって数多くの職員や専門家を雇用しており、それゆえ訴訟にも強いのです。



まとめ
最後に、アメリカにおいて環境NGOがなぜ盛んな活動が可能なのかについて、私の考えをまとめてみたいと思います(下図参照)。まず、集団訴訟制度により、行政を相手とした訴訟が非常に容易です。そして、公共信託法理により政府に非常に厳しい義務が課せられ、環境が劣化した場合の国の責任を明確にします。それゆえ環境NGOが勝訴する場合がおおく、その活動実績がより多くの会員や寄付を引き寄せます(事実、1980年代後半の環境訴訟では政府の敗訴が続きました)。その結果、環境NGOはより大きな会員と資金力を集めることができ、多くの有能な職員・研究者を雇用することが可能となり、それがNGOの能力を高めているのです。

アメリカ社会における環境NGOのロジック

1.
集団訴訟制度が環境NGOによる提訴を容易にしている

2.
公共信託法理が国の義務違反を明確にし、国の敗訴が増える

3.その実績によって、より多くの会員や寄付が集まる

4.より有能な人材を雇用しNGOの能力が高まる

筆者プロフィール
牧野 光琢(まきの みつたく)
1973年佐賀県唐津市生まれ。愛知県立旭丘高校卒業後、京都大学農学部水産学科入学。ケンブリッジ大学修士を経て、京都大学大学院人間・環境学研究科にて博士号取得。専門は環境政策論。主に海と人との関係について、制度学・経済学的手法と自然科学的知見の結合を目指す。尺八奏者としての号は「琢水」。
HP:http://risk.kan.ynu.ac.jp/makino


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