PACIFIC SAILFISH OF PANAMA
パナマ トロピック・スター・ロッジの
パシフィック・セイルフィッシュ

By Jack Samson
訳/雨貝健太郎

30年以上の歴史を誇るフィッシングリゾート「トロピック・スター・ロッジ」でのセイルフィッシングを紹介しよう。パナマのピニャ・ベイにあるこのロッジを一躍有名にしたのは、1965年に12Lbテストティペットによる136Lbのパシフィック・セイルフィッシュをキャッチし、IGFAのソルトウォーター・フライロッド部門世界記録を達成したステュー・アプトであった。その後、ロッジはビッグセイルフィッシュのスポットとして知られるようになり、現在に至っている。特に5月頃のピニャ・ベイ沖には相当な数のスクールが回遊するため、フライでの確率も高い。


ティーザー用のボニート釣りは毎朝の日課。
 友人のキャム・シグラーが初めてフライでセイルフィッシュを釣ったのは、1990年の11月、メキシコ・マサトラン沖でのことだった。彼の人生がすっかり変わってしまったのは、その時以来である。
 彼の妻、スーの言葉を借りるなら、「正直言って、あれ以来まるで別人。とにかくセイルフィッシュを釣ることしか頭にないのよ」ということらしい。
 ご承知の通り、キャムはトラウト&サーモンのフライフィッシングにかけては『Guide To Flyfishing』という本を著すほどのベテランである。ところが、パナマの「トロピック・スター・ロッジ」にセイルフィッシュを釣りに行かないかと誘った時の喜びようはなかった。私にパナマを薦めたのは、「バスプロ・ショップス」のトラベルエージェンシーに勤めるエド・ビーティーだった。
「5月なら絶対トロピック・スター・ロッジさ。この頃は世界のどこよりもセイルフィッシュが濃いよ。私の知っている限り、この30年間ずっとそんな感じなんだ。」

 たしかに、ビーティーの言葉は大袈裟ではなかった。サーフェスには、そこかしこにセイルフィッシュがいて、輝く陽の光を浴びてフィンニングしていたり、我々のティーザーを追いかけたりした。我々が釣っていたのは、パナマ・シティーから約100マイル南方、険しい山々の連なる海岸線から、ほんの4分の1マイルほど沖の穏やかな海だった。南に数マイル下れば、「トロピック・スター・ロッジ」のあるピニャ・ベイである。

 5月の早朝、我々はすでに実り多き1日を迎えようとしていた。朝の7時に釣りを始めてから1時間も経たないうちに、最初のセイルフィッシュがボニートのティーザーに姿を現わしたのだ。メイトのオリビオ・カシオが左舷のティーザーを巻き上げ、右舷のティーザーは私が操った。追いかけるセイルフィッシュとの距離をギリギリに保ちながらティーザーを巻き上げ、トランサムから30フィートの所まで魚を引き寄せてから一気に引き抜いた。と同時に、スキッパーのイサウロ・ウルティアが31フィートのバートラムをニュートラルに入れた。

筆者がタイイングしたビルフィッシュフライ。リーダーにポッパーヘッドを付けて使用する。

 キャムがタンデムのフライをセイルフィッシュから6フィートの位置にキャストすると、セイルはたちまちヒット。素早いジャークを数回繰り返してフックセットすると、セイルフィッシュは穏やかな海面を滑るようにして走った。私のアドバイス通り、キャムはリールのドラッグをあらかじめ弛めていたので、セイルはアッという間に2百ヤード以上のバッキングを引き出し、ギザギザの海岸線に向けて突っ走った。


「トロピック・スター・ロッジ」の全容。30年の歴史と伝統を誇るフィッシングリゾートの老舗である。
 それに合わせてイサウロがリバースを掛け、ボートを後進させ始めた。セイルフィッシュは少なく見積もって1ダースほどのジャンプをすると、今度は速度を緩めて潜り始めた。アクロバティックなファイトが終わると同時に、キャムはドラッグを強めた。セイルが海面で暴れている時は、弱いクラスティペットがビルに絡みつき、ブレイクしてしまう可能性が高い。最初にドラッグを弛めておくのは、そのためである。だが、フライロッダーはもう1度、ビルフィッシュをボートに寄せた時に危険を味わわなければならない。このバトルの最終段階でも、鋸歯状のビルはリーダーをカットするにはあまりにも強烈な武器になりえるのだ。


筆者がキャッチしたピニャ・ベイ沖のセイルフィッシュ。右がメイトのオリビオ、左がスキッパーのイサウロ。

 キャムは約20分でそのセイルフィッシュを寄せた。セイルは200フィート真下に潜っていて、浮かせるためにはゆっくりとポンピングする必要があった。この時、キャムと私はともにプロトタイプのビルフィッシュ用フライロッドを試用していた。キャムが使っていたのは、フライキャスターとして知られるスティーブ・レイジェフが設計した「Loomis」のオフショア・ビルフィッシュ・フライロッドだった。その2ピースの13番ロッドは、ターポンやセイルフィッシュ用として今日一般に使われているスタンダードな12番ロッドよりもはるかに丈夫で、より強い引っ張りにも耐えられる性能を持っていた。

 突然、セイルはサーフェスに浮かび上がると、ボート際で数回ジャンプした。ティペットへの衝撃を弱めるために、キャムがロッドティップをセイルに向けると、スキッパーがボートをリバースさせて、魚に近づけた。すかさずオリビオがギャフを下アゴに掛けた。イサウロはエンジンをニュートラルにして、コックピットに飛び降り、グローブを着けるとビルをつかんだ。2人は90〜100Lbはあるセイルを引き上げ、ベイトボックスの上に乗せた。

アクロバティックなセイルフィッシュとファイト中のキャム

 キャムの2尾めのセイルフィッシュを私が撮影している間、握手したり、背中を叩き合ったりでコックピットはたいへんな騒ぎだった。その後、セイルを海に戻すと、魚はゆっくりと透明な青い深みへと泳いでいった。
 その日、我々はさらに2尾のセイルフィッシュをキャッチ&リリースし、フック抜けとティペットブレイクで計6尾をバラして、昼下がりにロッジへ戻った。

バトルも終盤に近づき、セイルが接近してきた。

 午後になると、5月の空に、雨期の訪れを知らせる大きな積雲が湧き上がった。パナマの雨期は、5月の中旬から11月に渡って続くが、ロッジのシーズンはちょうど雨期と反対で、12月1日から6月1日までである。
「トロピック・スター・ロッジ」は1960年代初期にテキサスのフィル・スミスによって建てられた。ロッジ建設のための資材類は全てボートによってピニャ・ベイに運搬されたという。現在、この豪華なフィッシングロッジを所有経営しているのは、テリー・キットリッジという女性である。ロッジの2番目の所有者であったケネディー一族(JFKの)から、20年程前に彼女の父親が購入したということだ。ロッジには、ツインディーゼルを積んだ31フィートのバートラムがあり、宿泊施設には18名までの収容能力がある。

 セイルフィッシュの最盛期は5月だが、基本的には年間を通じてキャッチできる。さらにシーズン初期には、ブラック、ストライプ、ブルーマーリンも狙える。また、ショア近辺ではルースターフィッシュをはじめとして、ジャック(ヒラアジ類)やツナ類、ドラド(シイラ)も釣れる。ベイトに関しても問題はない。沿岸にはボニートの群れが多く、ロッジ前のリーフで毎朝捕ることができる。

 キャムと私は合計5日間、釣りをしたが、あんなにセイルフィッシュがいる海は初めてであった。ポイントはショアから2マイルもあったかどうか……。午後の雨は穏やかで、強い日差しを浴びた後では心地よかった。
 やはりロッジに来ていた87歳になる老アングラーと彼の孫は、6日間のトローリングで計116尾! のセイルフィッシュをキャッチ&リリースしたという。キャムと私はフライのみで計41尾のセイルをフックアップしたが、ほとんどをバラしてしまった。とはいえ、私は14尾、キャムは4尾(ビルフィッシュのフライを始めたばかりにしては驚くべき記録だ)をキャッチ&リリースできた。

 私が14尾のセイルフィッシュをキャッチできたのは、「Fisher」のフライロッドの性能によるところが大きい。この釣行の時はまだプロトタイプの段階であったが、現在は「Bluewater Flyrod」というシリーズで販売されている。ほとんどのセイルフィッシュは、14番ミディアムの3ピースでキャッチしたが、このロッドには22〜24Lbの重さを持ち上げるパワーがある。通常の12〜13番のフライロッドには8〜10Lb程度のリフティングパワーしかないことを考えると、驚異的である。その上の18番ヘビーモデルには30Lbのティペットを使用したが、にもかかわらず、ロッドを折らずにセイルフィッシュをディープから引き上げることができた。実際、私はテイルにラインが絡みついた100Lbオーバーのセイルフィッシュを、このヘビーモデルのロッドでキャッチしている。これがどういうことなのか、同じくテイルにラインが絡んだビルフィッシュをトローリングタックルで引き上げたことがある人なら分かるはずだ。ビルフィッシュ用のフライロッドもついに完成されたと言えるだろう。
「トロピック・スター・ロッジ」は、パナマ・シティーから双発のコミューター機で南へ約1時間のところにある。パナマ・シティーへは、マイアミ、ニューオリンズ、ヒューストン、ダラス、フォートワース、ロサンジェルスなどアメリカの各都市から飛ぶことになる。


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