カジキの海へ…喜界島
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| グランダーを求めて外国の海を彷徨している場合ではない。断言してもいい、クロカジキの怪物を狙うなら、これからは絶対に日本がおもしろい。日本の沿岸を流れる黒潮は、かのガルフストリーム・メキシコ湾流と並ぶ地球の2大潮流なのだ。そんな海がそこいらの海に劣るわけがない。実際、奄美諸島近海で960kgや1,000kgオーバーのスーパーグランダーさえ上がっているのだ。 ビッグゲームに対応できるオーナーボートがある程度普及した今、ようやく日本の海を開拓する準備が整ったと言えはしないだろうか。かつてのバハマ諸島におけるヘミングウェイ、マイケル・ラーナー、キップ・ファリントンのいわゆる「ビッグ・スリー」たちのような存在が、日本にも今後登場しないとも限らない。 ここでは奄美諸島の喜界島に狙いを定め、カジキの海に幻のスーパーグランダーを追い求めた……。 |
カジキ狂想曲 第一章
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| 実際のところ、「キカイジマ」と聞いて、すぐにそれが「喜界島」だと思い当たる人は少ないのではないか。奄美諸島や南九州の人ならともかく、私のような東京の人間にとっては少なからず耳慣れない地名であり、唐突にたずねられたりすれば、「機械島」いや下手をすれば「奇怪島」などとも答えかねない。 この喜界島、聞けば奄美諸島に属し、鹿児島を南下すること383km、奄美大島の北東25kmに位置する隆起珊瑚礁の島であるという。 その喜界島への取材の話が突如持ちあがったのが6月の半ば。なんでも奄美諸島近海ではかつて「1トン計りでは計れない」ほどのクロカジキが地元漁師の手によって釣り上げられており、またそれとは別に960kgのクロカジキも上げられているらしいのだ。1トンと言えば実に2,000ポンドオーバー。まさにスーパーグランダーである。耳の早いアングラーたちの間では、黒潮がマトモにぶつかるカジキの海、与那国、久米島に次ぐ第3の海として、奄美諸島近海は最近にわかに注目されつつある。 そこで、夏のベストシーズンを前に、これを狙わない手はなかろうと今回フネを出したのは、山口県は宇部マリンクラブの面々であった。ボートは野村春男氏所有のYAMAHA SF-51「遊&智」。かくして、我々「喜界島でスーパーグランダーを狙う隊」一行は、きっと釣れる、釣りたいという確かな自信と希望のもと、遥かなる碧いカジキの海へと元気に飛び出したのである……。 |
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現地入りしたその日の午後、さっそく下調べと称する釣りをしに海に出た。一路、喜界島の南東沖にある浮き魚礁へ向けてボートを走らせると、海はまったく凪いでおり、黄色い午後の陽を受けて黄金色に輝いている。 淡い夕焼けのなか、日の入りとともにフックアップ、スーパーグランダーとの壮絶なファイトが朝まで続くというドラマチックな展開を勝手に想像しては思わずほくそ笑んでしまうほど、なぜか潮風が心地よい。 ところが、噂の浮き魚礁はなんと百尾近いオキゴンドウイルカの群れに取り囲まれており、カジキどころの騒ぎではない。正直なところ、ヒジョーにマズイ状況ではあるが、明日以降の事態の好転に取材の命運を掛け、泣く泣く下調べを終了したしだいであった。 |
| 翌日、我々は午前6時にはすでに洋上の人となっていた。夜の闇はすでに西の彼方へと去り、代わって朝の崇高さで再び海が目覚めようとしているところだった。 とりあえずはイルカで覆われていた浮き魚礁周辺の様子を伺ってみて、状況次第で別のエリアをチェックしてみることになった。別のエリアとは、海図で調べた沖の瀬で、200mの瀬から約1,000mの深みへと急激に落ち込む崖のごときドロップオフである。そのドロップオフに沿ってルアーを引っ張ってみようというのだ。魚礁などには頼らない、基本に忠実な、いわば正攻法である。 |
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意外にも、浮き魚礁にイルカの姿はなかった。午前6時はちょうど潮止まりで、ほとんど波風のない海面に、目に見えるほどの激しい潮流はない。それでも、しっかりと潮上を見極め、きっちりと流す。タックルは5セット。アウトリガーのロング2本、フラットライン2本、センター1本である。ラインは50Lbと80Lbで、もしもスーパーグランダーがストライクすれば、それでも相当にライトなタックルとなってしまう。 |
| しかしながら、期待して流した浮き魚礁ではシイラの凄まじい急襲に遭い、早々に撤退することになった。そこで、当初からの予定にしたがい、前述の瀬に向かったわけだが、これが成功の口火を切った。まさに狙い的中である。(そのエリアに漁船がいた事実を考えても、読みが正しかったことが分かる) 特にレフトのフラットで引いていたヒコーキがアトラクティブなティーザーとして素晴らしい効果を発揮し、3回のヒットを誘い出した。うち2回はフックアップにまで至らなかったが、いずれにせよ、それはたいしたサイズではなかった。 |
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| 欲しいのは、鋭く痺れるようなエクスタシーただそれだけなのである。跳躍する相手に気高さと威厳が備わっていればいるだけ、こちらのエクスタシーは大きいのだ。 その意味では、3番目の魚は極めて良質のエクスタシーを我々に味わわせてくれた。一度はヒコーキを突きに姿を現わし、10秒後に再びライトのフラットラインに激しくヒットしてきたのだ。 その美しい獣の姿を見た瞬間から、我々は一気に昇りつめ、キワドイ跳躍のたびに幾度となく絶頂を迎えた……。 |
第二章
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スポーツアングラーなら誰しも1,000mもの深みに達するあの海の色を見たことがあるだろう。 一般に、海は、海水分子や物質粒子に反射した太陽光線の波長に応じて、その色を驚くほどに変化させる。つまり、透明度が高ければ高いほど碧く、反対に低ければ低いほど緑色に濁るわけである。 フライブリッジから望む喜界島沖の海は、恐れを感じさせるまでに碧かった。 恐れは理解できないものに対して抱く本能的、原始的な感覚だと言われるが、アングラーは理解不可能な海に生きる混沌の王としてのカジキを打ち負かすことによって、陸上では決して得られない鋭く痺れるような激しいエクスタシーを経験するのだろうか。いや、アングラーばかりではあるまい。キャプテンもデッキハンドも皆それぞれ強烈な絶頂感を味わっているにちがいないのだ。 いずれにせよ、リーダーマンがいよいよダブルラインを目前にしようという瞬間、海中でシャッターを押す私もまた、例の鋭く痺れるようなエクスタシーで全身が痺れていた。 |
| 水深1,000mの海は想像する以上に明るく、一瞬の間、穏やかな安心感に包まれる。明るく優しい液体に全身に包まれているという安心感だ。ところが、次の瞬間には、その安心感よりもずっと根深く圧倒的な恐怖に打ちのめされるのだ。視界にはただコバルトの深いブルーが広がっているばかりであり、当然のことながら底は見えない。それどころか、基準となるような物体は何もなく、実際のところ透明度がどのくらいなのかも知ることはできないのだ。この何も見えないという状況が恐怖を発生させる源である。全身を包まれているという安心感と、ブルーの広がりがもたらす恐怖。そんな表裏一体の異常な興奮に呼吸を荒げながら、ふいに、その青のなかに揺らぐクロカジキの銀影を見つけた時、例の鋭く痺れるようなエクスタシーが私の大脳皮質を一気に刺すのである……。 |
| 港に帰り検量すると110kgであった。カジキの気高きファイトに敬意を表しつつ記念写真を撮る。右写真の左からキャプテンの佐々木敦司氏、アングラーの野村春男氏、クルーの松尾和徳氏。今回の猛者たちである。 すでに1本上げている余裕からだろうか、翌日は出港を30分遅らせた。飛行機で飛んで来た私は別にしても、山口からのロングランがこたえていないはずはない。 翌日は前日とほぼ同じパターンで攻めてみた。朝一番に浮き魚礁をチェックしてみたが、やはりどうにもシイラが多すぎる。結局、前日に爆発した瀬のラインを狙ってみることになった。 タックルは20Lbを含めた計5セット。20Lbラインクラスによるクロカジキの現日本記録は、89年に与那国沖でキャッチされた72kgである。前日に上げたクラスを、もしも20Lbで取れれば大幅に日本記録を更新することになる。間違いなくヒットはあるはずだが、問題は1セットしかない20Lbタックルにヒットするかどうかである。とりあえず、ライトのアウトリガーでロングに流して様子を見ることにした。 前日とまったく同じ瀬のドロップオフを流し始めて間もなくセンターにヒットがあり、一同「ヤハリ」とうなずくが、ルアーにジャレつくだけでフックアップしない。結局、その後にもう1回のヒットがあったものの、それもまたフックアップには至らず、ストップフィッシングを迎えた。 |
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| 目的のスーパーグランダーこそ夢に終わってしまったが、狙い通りのエリアで見事キャッチに成功した宇部マリンクラブのテクニックとチームワークはやはり賞賛に値する。 |
喜界島のスポーツフィッシング事情オーナーボートorチャーターボート |
珊瑚の幻―喜界島 喜界島は太平洋と東シナ海の狭間に浮かぶ隆起珊瑚礁の島である。喜界島という島名のインパクトの強さから、小笠原や伊豆七島に代表される険しい火山島を想像してしまいがちだが、さにあらず。実に平坦で穏やかな印象を与える島である。 |
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しかし、喜界島でのハイライトは、やはり何と言っても島の周囲を取り囲む珊瑚礁の見事さで極まる。奄美大島からの機上からも分かるのだが、海岸線の海が信じられないほど健康な色をしているのだ。珊瑚の海の美しさを実感として味わうためには、スキューバでなくともシュノーケリングでもいい、いやいや大きく譲ってグラスボトムボートでもヨシとしよう。とにかく騙されたと思って海の底を覗いてみることである。 |
| とはいえ、パンフレットに紹介されているようないわゆる観光ポイントを日がな一日ブラッとまわってみるのも決して悪くない。それは小さいながらも新鮮な感動を間違いなく与えてくれるだろう。 ところで、喜界島に限らず、島での過ごし方ほど、その人間の生き方というか趣味というか、その人自身のライフスタイルが強く影響する場所もないのではないだろうか。おそらく、釣りが目的でやってきた人は海ばかり見つめて陸上にはまったく目を向けないであろうし、設備の整ったリゾートでのんびりするためにやってきた人は施設外に出ることもないだろう。つまりは、自分の求めるものだけを、人は島に求めてやってくる。だから、島では、余分な贅肉をそぎ落とした明確なライフスタイルを送っている人ほど楽しめる。自分を理解している人間ほど楽しめるのだ。島は、実に自分自身を映しだす鏡のような特別な場所なのかもしれない。 喜界島の宿はホテル、民宿、ペンションとバラエティーに富んでいる。詳しくは喜界町役場(電話0997-65-1111)まで。 |
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