Broadbill Swordfish

メカジキに挑む

沖縄、辺土岬沖に
ソードフィッシュを追う

文・写真/編集部


the only records that can never be broken are "firsts"

その神秘性、そのフッキングの難しさ、その強烈なファイトにより、メカジキ(ソードフィッシュ)釣りは、さまざまなビッグゲームを体験したアングラー達の最後の聖域とされてきた。我が日本では、かつて深場釣りの外道で釣れた記録を除いて、アマチュア・アングラーがロッド&リールでメカジキを狙って仕留めた例を、私は知らない。
11種類のビルフィッシュ(メカジキ、バショウカジキ、ニシバショウカジキ、フウライカジキ、チチュウカイフウライ、クチナガフウライ、ニシマカジキ、マカジキ、クロカジキ、ニシクロカジキ、シロカジキ)とまではいかずとも、9ビルフィッシュを記録することを究極の目標とするビルフィッシャーにとって、メカジキを釣ることは、その最も困難なハードルを越えることを意味する。
1917年、ゼーン・グレイは彼にとって初めてのメカジキを釣り、以後、この最も困難で、最も魅力的な釣りの探究に多くの時を費やした。例えばある年の1シーズン、彼は延べ93日間も海に出たが、その時に140尾のメカジキを視認し、そのうちの94尾にベイティングを試みた。結果、ストライクが11回、フックアップしたのが7回で、何とかランディングにまでこぎつけたのは僅か4尾にすぎなかったという…。

7月10日、我らが『スポーツアングラーズ』の面々は、沖縄本島最北端「辺土岬」と与論島のほぼ中間地点の洋上で大きな吐息をついていた。メカジキとの邂逅を夢見た今回の釣行は、決して破られることのない「最初に釣った…」という記録を達成することにあったが、同時に、メカジキ釣りの迷宮に我が身を投げ打つ旅でもあった。

メカジキの生態学およびIGFA世界記録

 カジキ類は、2科(メカジキ科、マカジキ科)4属(メカジキ属、バショウカジキ属、マカジキ属、クロカジキ属)11種(前述の11種を参照のこと)に分類できる。
 メカジキは、スズキ目・カジキ亜目・メカジキ科・メカジキ属・メカジキとなり、全世界のメカジキを共通の1種とみなしている。
 成魚のビル(吻)は非常に長く、扁平である。頭と眼は他のカジキ属に較べて大きく、腹鰭が無く、尾柄隆起は一対である。第1背鰭は高く鎌形をしており、鰭条は成魚になるにしたがって、後方が皮下に埋没し、他のカジキ類のなだらかな曲線を描く背鰭とは大きく異なって見える。また、体の扁平度はカジキ類中で最も少なく、丸々とした体断面をしている。体色は非常にバリエーションがあり、背の方はダークブラウンないしブロンズ色からグレイがかったブルーないし黒まである。腹部は白っぽいが、一方では、腹側部にくすんだ白が少しあるくらいで、ほとんど体全体に色がついたものを見かけることもある。
 メカジキは最もコスモポリタンなカジキで、その分布は熱帯から温帯、さらには寒帯地域まで広く分布している。南極海で捕獲されたシロナガスクジラにメカジキのビルが突きささっていた例も報告されている。
 メカジキの稚仔魚はメキシコ湾やメキシコ湾流全域、北西太平洋熱帯域・温帯域、またインド洋などからも多く採集されている。
 繁殖活動の大部分は熱帯域で行なわれているようであるが、成魚は比較的冷水を好み、繁殖期を別とすれば、普通は、熱帯地方の大洋、特に水面近くには少ないようである。しかし時おり、海面で昼寝をしているようなメカジキを見かけることもある。


 その食性は、小魚、イカ等、その他捕えて食べられるものは何でもエサにしており、表層魚から深海魚まではば広く捕食し、カジキ類中最もバラエティーに富んだ食性を持っている。
 日本近海で捕獲されたものの胃内容物は、イカ類、クロタチカマス、タチウオ、メダイ、ムツ、サバ類、シマガツオ、ミズウオ、イワシ類、カニ類などが多い。
 メカジキは成長に伴って顕著な体形の変化を示し(右図参照)、成長と共に両顎と体形が大きく変化し、鰭の分化が進んで行く。
メカジキ(Xiphias gladius LINNAEUS)

[呼称]メカ、メカジキ(東京);カジキトウシ、ツン(土佐清水);イザス(富山県北部);ギンザス(富山県魚津);クダマキ(高知市);ゴト(鹿児島);シュウトメ(紀州);テッポウ(高知県安芸);ハイオ(壹岐);メサラ、メダラ(神奈川県);ダクダ、ラクダ(千葉県);アンダアチ(沖縄)。

[中村泉・岩井保・松原喜代松:カジキ類の分類学的研究(京都大学みさき臨海研究所特別報告別冊)]より

メカジキの成長に伴う外形の変化

A. 全長6.4mmの個体 B. 全長11.0mmの個体 C. 全長160mmの個体 D. 全長240mmの個体 E. 全長359mmの個体 F. 眼の後縁から尾叉まで268mm-(全長約380mm)の個体 G. 全長554mmの個体 H. 全長827mmの個体 I. 全長約1.2mの個体 J. 全長約3mの成魚 A〜Hは矢部ほか(1959)より略写。

(京都大学みさき臨海研究所特別報告別冊より)


 IGFA世界記録は1953年5月7日、チリのイキイケ沖で、夫人と共に世界の海を釣り歩いたロウ・マロンによって記録されたもので、536.15kg(1,182Lb)、全長約4.5m。これは60kg(130Lb)テストラインで釣られたものであるが、同時にIGFAオールタックル部門の記録ともなっている。またマロン夫人が翌1954年6月7日に同じくチリのイキイケで37kg(80Lb)ラインで達成した350.17kg(772Lb)も、女性部門のIGFAラインクラスおよびオールタックル部門の世界記録の座を今もって保持している。
 一方、国内でスポーツ・アングリングによるメカジキの記録は未だ一つも無く、当然ながらJGFA日本記録も、全てのクラスが空欄となっている。
 我らが『スポーツアングラーズ』編集部は国内における、この手つかずの対象魚のベールを解き明かすべく、7月、沖縄北部の辺土名をベースに、イカ場にメカジキを追った。


(左)マロン氏はソードフィッシングのパイオニアであり、メカジキの野性に魅せられた男でもあった。この釣りのために彼はスーパーボートを建造し、世界の海域に巨魚を求めた。写真は現在もIGFA世界記録を保持している536.15kgのメカジキ。
(上)メカジキ釣りに魅せられた男。ロウ・マロンその人。
(右)夫と共に、メカジキを求めて世界の海を旅したマロン夫人は一流のアングラーであった。

“9ビルフィッシャー”高橋一郎氏の場合

 現在、日本人で唯一の9ビルフィッシャー高橋一郎氏がソードフィッシングに成功したのは1989年7月4日のことである。バショウカジキ、クロカジキ、マカジキに続く4番目のビルフィッシュにメカジキを仕留めた事で、彼の9ビルフィッシャーへの道は一気に短縮されたわけである(当ウェブ第1章『ビルフィッシャー 高橋一郎の全記録』参照)。ここでは高橋氏に、彼がチャーターボート『イルージョン』で経験したそのメソッドを紹介してもらおう。以下、高橋氏談。

 1988年の9月下旬、ビッグブラックで有名なオーストラリアはリザード・アイランド沖、リボン・リーフのNo.10でトローリングをしていた私たちは(ボートは『カマリ』)、600ポンド・オーバーのメカジキが遊泳しているのを発見。この海を知り尽くしているキャプテンのジェフでさえ実際に洋上で見るのは初めてというメカジキに興奮気味であったことを覚えている。従来、オーストラリアでは南部、それもメルボルン、タスマニア周辺でのメカジキの存在は広く知られていたが、グレート・バリア・リーフのブラックマーリンのポイントでこのような大型のメカジキを目撃したことは非常に珍しいことであった。
 さて、マーリン・キャピタルとして有名なハワイ島コナの海でソードフィッシングの開拓に成功したのはチャーターボート『イルージョン』のキャプテン、ホワン・ワロキエラス氏である。勿論、他の名だたるコナのキャプテンたちもこれを見逃すはずはなく、情報の収集と釣技の開拓に情熱を注いでいるようである。ここでは、私が1989年7月に当時の『イルージョン』(トパーズ、36ft)をチャーターしてメカジキに挑んだ際の攻略法を紹介してみよう。

1. ロッド・セッティング
 トランサムデッキのセンターには、ダウンリガーを用いて60kg(130Lb)ラインを60ヒロの深度に設定。右舷(図では左)には37kg(80Lb)ラインを使用し、リーダー部には30号程度のナツメ型中通しオモリを用いて40ヒロの深度に沈める。左舷のタックル(図では右)には、同じく20号程度のナツメ型中通しオモリを使用し20ヒロの深度に設定する。この際のライン強度は24kg(50Lb)クラスである。つまり、深度が浅くなるにつれてラインクラスをライトに設定する訳であるが、これは、メカジキの大物ほど深場でヒットするという彼ら『イルージョン』のスタッフ達の経験によるものである。





2. ファイティング方法
 メカジキのアタリを持つ間はパラシュートアンカーを用い、エンジンは停止する(ドリフト状態)。従ってアングラーは、キャプテンの操船によるフックアップ及びファイトの際のサポートを得られないので、魚が走った場合にはロッドを保持したままコクピットを動き回らねばならない(図ではA⇔B⇔C)。
 すなわち、Aの向きにファイティングチェアーでファイトしていても、ラインが船底に向いたならば直ちにチェアーから降り、BからCのポジションに移り、再びファイティングチェアーに座ってファイトすることになる。
 いずれにせよロッドを保持したままファイティングチェアから降りたり、コクピットを動き回り、再びチェアーに座りファイトするといったことの繰り返しとなる。これは事前の練習でもかなりハードであるので、メカジキがフックアップした後の実際のファイトは更にきついものとなる。

3. タックル
 ロッドはメカジキのファイトの特性によりカーブドバット(ツナバット)を使用したが、ツナバットのロッドに使用するヒップサポートタイプのハーネスは使用しない。これは、メカジキの動きに合わせてコクピット内を移動するのに適しないからである。


4. その他

●デッキ・ライト

 メカジキはライトを極端に嫌うようなので、デッキ・ライトは海面を直接照らすような場合は赤色布で覆い、光をソフトにする(暗室ライトのような状態)。

●釣法
 冷凍イカをミンチ機でミンチにし(1晩に40kgは必要)、海水でうすめ、液状にする。そして間断なく少量ずつチャミングを続ける。一方、海面上を水中から照射する水中ライトをセッティングし(水中1〜2ヒロ)、イカを寄せる。
 イカの餌木を用いて、イカが釣れると40・20ヒロ用の37kg(80Lb)・24kg(50Lb)ラインのデッドベイトと交換する(ライブベイトでは釣れる確率もアップし、更にキハダも釣れる)。

●潮時
 光を嫌うメカジキの習性上、満月の前後はメカジキは浮上しにくいようである。結果、新月前後の大潮廻りがベストであろう。釣行に際しては現地の潮時を事前にチェックするのは当然であり、摂餌活動の盛んな19:00〜21:00頃の上げ潮3の潮時がベストであると私は思う。

談/高橋一郎


日本でメカジキを釣る!!
初めて一敗、地にまみれた
『スポーツアングラーズ』編集部の場合
沖縄県辺土岬沖でのチャレンジ
無垢の漁船をソードフィッシング用のマシーンに改造することから私達のチャレンジは始まった。ダウンリガーのマウントを着け、ロッドポストを設置するうちに南の島に陽が沈んだ。

 スポーツアングラー達の間で行なわれているメカジキ釣り(ソードフィッシング)は、ダウンリガーを使用したボトムフィッシング(100m以上の水深の場合もある)か、ナイトフィッシングが一般的な方法である。しかも、メカジキはルアーにはまずヒットしないと言われており、通常はイカを中心としたライブベイトもしくはデッドベイトによるドリフティングが主流となっている。
 現在、世界的に有名なメカジキの釣り場としては、ベネズエラ、チリ、バハマ、ハワイ島コナなどがあげられるが、近年ではその数も減少し、サイズも小型化の傾向にある。

ソードフィッシングに絶大の威力を発揮する事を期待したダウンリガーであったが…


 今回の取材でメカジキ釣りにトライした海域は、沖縄本島と与論島のほぼ中間に位置するイカ場であった。この海域ではセーイカと呼ばれる大型のイカを延縄方式で釣っており、その仕掛けにメカジキが時々かかってくるそうである。しかもそれらは年間数尾といった数ではなく、今年に入ってからも既に30尾以上のメカジキが記録されているということであった。セーイカ漁の仕掛けは、400〜500mの幹縄の先に120号程度のナイロン・モノフィラメント・ラインをつなぎ、ナイロン部に大型のイカヅノを数本取り付け、300号程度のシンカーで沈め、ブイに付けて潮流に乗せるわけである。この程度のオモリを付けた延縄が、実際にどの程度の深さまで入っているのかは漁師の方々も正確に把握していないようであったが、少なくとも100m以上は確実に入っているのではないかと思われる。また、夜間のイカ漁では漁船のライトにイカが集まり、そのイカを捕食しにメカジキが海面近くまで浮上してくることもあるそうだ。

夜の帳に包まれた南の洋上でただひたすら、メカジキのアタリを待つ、ただひたすら…。

 このような地元の情報を許に、我々は昼間のダウンリガーフィッシングと夜間のデッドベイト・ドリフティングを行なった。まず昼間のダウンリガーは、前述したセーイカの漁場でシーアンカーを使ってドリフティングを行なった。潮流が速いため、仕掛けのトラブルを考えて、ダウンリガーは2基だけで行なった。
 一基120m、そしてもう一基は60mにセットし、それぞれの仕掛けに全長30cm程度の松イカを一尾掛けにして流した。ダウンリガーのウエイトには、コナのナイトフィッシングで使われているような大型のサイリウムライトを取り付けたのだが、実際の効果については確認できなかった。多分これらの発光集魚器はメカジキを直接寄せるのではなく、エサとなるイカなどを集め、間接的にメカジキを寄せるのではないかと思われる。夜間もやはりシーアンカーを投入してドリフティングを行なったのだが、昼間と違って2基のダウンリガーの深度を50mと30mに浅くし、その他にもオモリを付けたムーチングスタイルで水面下10〜20m位の深度を狙ってみた。また夜間は漁船のライトに小型のイカが集まってくるので、それを釣りながら、イカのライブベイトも試してみた。しかしこれには、意外なことにセーイカが喰いついてしまうため、度々エサを交換しなければならなかった。
 今回の釣行は日程的に余裕のあるものではなかったので、2日間の昼、夜釣りしか試すことができず、メカジキの反応を得ることができなかったが、確実にメカジキが獲れているこの海域では、必ずロッドで釣ることが可能であると確信している。

今回は松イカとサンマのデッドベイトを使用した。餌木に来たイカはライブベイトで試し、キビナゴとイカ、それにサンマによるミックス・チャミングでメカジキの臭覚を刺激した。ただしメカジキ不在の夜に。

正真正銘メカジキのビル。ただし2ケ月前の…。

トライ&エラー、そしてサクセス!!

 メカジキ釣りには、さまざまな試行錯誤が必要である。現在は夜釣りが主流となっているが、かつては昼間、メカジキを狙うために考案されたベイティング・タワーと呼ばれる高い見張り台からメカジキを捜し、デッドベイドもしくはライブベイトをベイティングさせる方法が盛んであった。ルアーを追うことは少ないようだが、稀にルアーにヒットした例や、イカの餌木(決してそれにイカがかかっていたのではなく)を呑み込んだ例もある。
 確かに、かつての豊饒の海では、表層であれ中層であれ、おおらかにチャレンジできるだけの魚影があった。メカジキは広範囲に分布する種ではあるが、現在、その数は、やはり減少しているようである。1953年に打ち立てられた536.15kg(1,182Lb)の記録が今もって健在なことに逆説の悲哀を感じる。
 時折、海面を浮遊しているメカジキを見かけることもあるが、捜して見つけられるという頻度ではないので、現在は表層を広く探って狙うことは難しい。今回、私達が釣行したイカ場では、煌々と輝くイカ漁のライトの中に浮かび上がってきたメカジキの話や、50m程の深度でカツオのデッドベイトで釣れたという例もあり、かなり鷹揚な気持ちでメカジキに挑んだことは否めないが、稀にあるケースをも頭の片隅に入れて戦略を練ることは決して間違いではないだろう。

ベイティング・タワーと呼ばれるメカジキの見張り台。この高いポジションからメカジキにベイティングし、フックアップさせるのである。

 今回の釣行で、まだ見ぬメカジキとの遭遇に、漠然とした手応えではあるが、ある種の確信が掴めたことは大きな収穫であった。
 次回の釣行はマル秘である。


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