BIG BLUE
〜16〜
写真と文 須賀安紀
Written & Photographed by Aki Suga

リリースしたカジキはマカジキ、されど
再捕されたカジキはクロカジキ!?

マカジキ、クロカジキ、シロカジキ……!?

 夏も終わり、各地で開催されたビルフィッシュ・トーナメントの資料やら写真やらをつらつら眺めるに、まさに“つわものどもが夢のあと…”という思いを強くする。
 今年、各地のビルフィッシングは押し並べて釣果に恵まれ、この原稿を書いている時点でのタグ&リリースは69尾に及んでいる(キャッチ数は281尾)。
 この、報告のあった総計350尾のカジキの96%はクロカジキである(らしい…)。
 国内の、各地の主要トーナメントの開催時期や海域を考慮するまでもなく、国内のビルフィッシャーがキャッチし、報告するカジキは圧倒的にクロカジキが多い。ただ、タグ&リリースがこれだけの数になってくると、再捕された時に生じる混乱も、まま起りうる。

まさか、フウライカジキとバショウカジキを間違えることは無いと思うが…。
 それはリリースする際の、種の同定ミスによるもので、マカジキのタグ&リリースとして報告されていたものが再捕されてみるとクロカジキであったり、その逆のケースも大いに想定されうることである。
 現時点での、この350尾のカジキが全て正しく識別、同定されたものであるかは分からない。実際、過去の主要トーナメントにおいてもマカジキ、クロカジキ、それにシロカジキの同定ミスは何度か見受けられたし、研究者においてもマカジキの好サイズをクロカジキと判定したこともある。幸い、18年前のこのケースは、それを見かけた漁師の「おお!いいマカだねえ!」という一言でマカジキに訂正され、正しく同定されたのだが、研究者においてもたまさか、そういうミスは起りうるのである。まして、マカジキやシロカジキを実際に見たことのないアングラーにとって、洋上で繰り返されるカジキのジャンプから、それら3種を、自信を持って瞬時に同定することなどは至難の技である。
 さらにタグ&リリースの局面においては、断片的に垣間見る魚体各部の特徴から類推して、カジキの魚種を同定するなどという手法は現実的なものとは思えない。
 瞬時にカジキを同定する一番確実な方法は、やはり“魚体全体のイメージ”である。体高、魚体の厚み、背鰭の高さや形、胸鰭、体色、それらを総合した瞬時のイメージ判断がリリースするカジキを同定するときには重要な、そして最も確かな要素となる。

 経験に勝る同定方法は無いのだが、私はひとつの基準として、まずは普段目にすることの多いクロカジキを徹底的に観察することから始めることをお勧めする。クロカジキという魚種の徹底したイメージを養うことで(クロカジキなら絶対間違わないという拠り所を自身の判定基準とし)、それとの比較対象としてのマカジキ、及びシロカジキとの差異を見出すわけである。
 2年前に私は、遠洋水産研究所との仕事で、ジュリアン・ペペレルの『インド洋および太平洋におけるビルフィッシュのフィールドガイド』をベースに、『カジキの種類と同定』という冊子を制作したが、これは目下、最も信頼のおけるカジキの同定ガイドブックであると思われる。遠洋水産研究所の方々とは、更に完璧なヴァージョンを制作しようと話しているが、目下はこれがベストの冊子である(と思う)。現時点で、これより優れたものがあるなら是非ともお教え願いたい。
 クロカジキとマカジキの第2背鰭は、第2尻鰭より後方に位置し、シロカジキのそれは前に位置するという重要な識別要素も、こればかりに固執していてはリリースしようとするカジキを同定する上では甚だ判別しづらい要素となる。  写真に撮られたカジキを同定する場合においては、第2背鰭と第2尻鰭の位置関係は、写真を撮った角度によってどうにでも見えるもので、これまた甚だ心もとない識別要素ともなる。
 また体色ほど個体差のあるものはないし、どういう死に方をしたかによっても、その後の体色には大きな差異が現れる。
 シロカジキの決定的な識別要素とされる胸鰭の固定(体に沿って畳むことができない)に関しても、幼魚においてはその限りではないし、クロカジキにおいてもピンと張り出し、死後硬直で固定されたかのような胸鰭を見て、シロカジキと判断された例も幾つかある。
 少しばかりピント外れな例えかもしれないが、同じアジアの民として、私たちと極めて近いモンゴルや朝鮮の民族にしても、私たちはそれとなくその微妙な差異を感じるものである。それはやはり、全体のイメージであり直感である。日本人社会という同一種族の中で(この場合は文化的な要素の方が多いのは分かっているが)、無意識に確立された日本人というイメージが、モンゴルや朝鮮との人種の差異を直感的に捉えるのである。それもこれも日本人という確固たるアイデンティティーがあってこそ可能な“直感”ではある。
 優れたカジキ漁師は、いちいち背鰭の高さや位置を個別に確認した上で“マカ”だ“クロ”だと判断を下すわけではない。そのカジキを見て瞬時に分かるのである。
 繰り返すが、まずは最も身近なクロカジキについて知ることである。記念にビルを切って、あとは野となれ山となれでは死んだカジキも浮かばれまい。
 献体された遺体を恭しく扱い、医学の発展に役立たせる行為と同様、滅多に無いチャンスをモノにし、釣り上げたカジキをゆめゆめ粗末に扱うこと無かれ!

オーストラリア、ニュー・サウスウェールズ州沖で3種のビルフィッシュを一度にキャッチした貴重な写真。左からクロカジキ(146kg)、シロカジキ(124kg)、マカジキ(81.5kg)。〈独立行政法人 遠洋水産研究所発行『カジキの種類と同定』より〉

(『パーフェクトボート』(ネコパブリッシング)掲載分より)


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