Stand-up Fishing

西海岸から東海岸へ
スタンダップの必要性は消失し、よりマニアックに発展した


 必要は発明の母、という諺を誰が最初に言い出したのかは定かでない。けれども、この諺を聞いたある愚者は「するとハイヒールはおでこにキスされた女性によって発明されたんだろうな」と言ったとか……。
 フィッシングの世界でも、このハイヒールの洒落のように、必要に応じた様々な発明工夫やビッグゲーム用のモダンなタックルがぞくぞくと登場しているが、その中で最も新しいのがスタンダップ・フィッシングであろう。このスタンダップ・フィッシング用のタックルの開発は、そもそも、南カリフォルニアの沖合を長期遠征するパーティーボートで巨大なイエローフィン・ツナと悪戦苦闘する釣客の必要に応じ、近年になって生まれたものである。そのようなパーティーボートでは、強烈なイエローフィン・ツナの引きを、アングラーは立ったまま自分の肩で受けとめなければならない。手摺りに膝を固定させ、必死にバランスをとりつつ、高い甲板から、深い海の底にいる獲物と渡り合わなければならないのだ。こんなパワフルな大洋の大物と対決するために、当然あるべきファイティング・チェアーもそこにはないのである。


 スタンダップ・フィッシング用のタックルは、このようなアングラーを念頭において開発されたのである。バットの短い頑丈なショート・ロッドは古くからあったが、その有効性が再評価されて以来、さらに高度なものへと改良・発展してきた。特にロウ・ライズの特注ジンバルが装着された場合、それは信じがたいほどのリカバリー・パワーを発揮する。ロッド・バットはさらに短くなり、フォアグリップは逆に長くなった。その結果、アングラーは立ち姿勢のまま、リールのはるか前方をしっかり握り締めることができ、より強力なパワーを伝えられるようになった。
 キドニーハーネスは豊富な種類が開発され、どんな体格のアングラーでもぴたりとマッチするものが見つかるようになった。ロッドも短くてパワフルな“ストローカー”に続いて、すさまじいリカバリー・パワーを持つグラファイト・コンポジットのショートロッドが登場してきた。

 スタンダップ・フィッシングの釣果は、そのハーネスの良し悪しに負うところが大きい。当初はシッダウン・ハーネスを流用していたが、そのショルダー部とブレイシング部をさらに改良したスタンダップ・フィッシング専用のものも売り出されてきた。その昔、ノヴァ・スコシアの沖合で改造した床屋の椅子の上でツナとファイトした時代のハーネスに使われていた帆布や革も、今では宇宙時代の化学繊維にとって代わられた。ストラップの長さは、スタンディング・ポジションに合うように改良され、ジンバル・ベルトがハーネスにクリップで止められるようになった。そのおかげで、かつてのようにジンバル・ベルトで腹を締めつけられることもなくなった。


必要の結果として生まれたスタンダップ・フィッシングだが、東海岸のビルフィッシャーたちの間に広まるにつれ、意味が異なってきた。
 時を経ずして、スタンダップ・フィッシングは東部にも普及しはじめた。北大西洋のアングラーも、このサンディエゴ生まれのフィッシング・テクニックを取り入れるようになってきたのだ。
 当初、スタンダップ・フィッシングの各種タックルは、カリフォルニア沖合での中型魚(ビッグアイ、ブルーフィン、イエローテイル)を対象にしたカスタム・メイド的なものであったが、次第により大型の魚を狙うアングラーの注目をも集めはじめたのだ。
 スタンダップ・フィッシングの呼称がビルフィッシャーの間で広まったとき、その必要性は、これまでとガラリとちがっていた。“男っぽい腕力”を誇示するためのものに変じたのだ。そして、釣具メーカーも、この新しい商品を売るために、その風潮をあおってきた面がなくもない。なぜなら、まず第一に、ビルフィッシングはツナ・フィッシングと違ってパーティーボートで釣ることがめったにない。第二に、ビルフィッシング用のボートには、必ずと言っていいほどファイティング・チェアーが備わっている。大多数のビルフィッシャーはサンディエゴの釣客よりもはるかに恵まれた装備を持っている。その中で、あえてスタンダップ・テクニックを用いようとするのは、ライトタックル信奉者か超マニアックなビルフィッシャーだけである。彼らにしろ、トーナメント優勝のかかる場合には、ファイティング・チェアを好んで用いるはずだ。よって、この場合“発明の必要性”の多くの部分は消失しているのである。

マニアックなアングラーにスタンダップがうける理由

 とはいえ、スタンダップ・フィッシングの各種タックルとそのテクニックは、熱心なビルフィッシャーたちに受け入れられつつあるようだ。 アングラーが自由に動けるという点は、特にビルフィッシュのようなゲームフィッシングに大きな優位性を与える。その方が、より素早く、より容易に、ロッドティップを魚の動きに合わせることが出来るし、ランディングの際に起きがちなパニック状態を回避することも出来る。またビルフィッシュが、突然、船底に潜り込んだ場合にも、ファイティング・チェアに縛り付けられているアングラーよりはるかに的確にその動きをコントロール出来るのである。
 スタンダップ・テクニックは、ファイティング・チェアを持たぬ小型ボートでのビルフィッシングに最適と言える。20〜50Lbクラスのスタンダップ・タックルを用いれば、ファイティング・チェアを装備したボートに決して劣らぬ成果をあげられるはずだ。またセイルフィッシュを探している時によく起きる複数ヒットの場合でも、そのボートにロケット・ランチャーが備わっていれば、スタンダップ・テクニックの方がずっと容易に対処できる。多連装式ロケット・ランチャーは、実のところ、ファイティング・チェアでのフィッシングに勝る有利性をスタンダップ・アングラーに与え、多重フックアップを巧みにさばけることから、さらに釣果を上げることにつながるのである。

セイルフィッシュのマルチストライクにも、ロケット・ランチャーがあれば、スタンダップが有利だ。

 実際、50Lbクラスまでならば、ほとんどのビルフィッシュは、スタンダップ・テクニックでランディングすることができるのだ。むろん、それに相応しいロッドとぴたりとフィットしたハーネス、それに練習が不可欠ではあるが……。魚へどれくらいのプレッシャーがかけられるかは、チェア、スタンダップにかかわらずリールのドラッグ強度設定によっているが、多くのアングラーは、スタンダップ・フィッシングの方がより容易に最大限のプレッシャーをかけられると感じている。どちらの釣り方においても、経験を積んだアングラーは、もしその必要があれば、ラインかスプールを手袋をした手で押して補助的なプレッシャーをかけられる。

 スタンダップ・フィッシングの優位な点はまだ他にもある。予算の限られた小型ボートにとっては、高価なファイティング・チェアと手軽なハーネスのどちらが負担が少ないか、すぐに判断がつくだろう。

左:黄金の正三角形スタイルを保つアングラー。
右:ハーネス使用時は、左手をリールにおいてもよい。


ラインクラスで言えば50Lbテスト
これがスタンダップの上限

 現在では、大手のオフショアー用ロッドメーカーのほとんどはスタンダップ専用のショートロッドを製造するようになった。その大部分はファイバーグラスのブランクから製作されるが、最近ではグラファイト・コンポジットを使ったショートロッドがその戦列に加わった。グラファイトは軽量でありながら高い反発力を持つというのが特長だが、スタンダップ・フィッシングにおいては、その優れた反発力は意味を持たず、逆効果である。その理由は、30〜50Lbクラスのスタンダップ・タックルを使用するアングラーは、ファイティング・チェアのアングラーほどには、ロッドの性能に頼ることが少ないからである。つまり、スタンダップ・フィッシングではショートポンピングがもっとも有効なテクニックであるため、ロッド自体の反発力にほとんど頼らないのだ。代わりにロッドティップには十分な強さが要求されるが、それは、ロッド自体の反発力で徐々にラインを回収するのと違って、ショートポンピングの場合はストロークの度に少しづつラインを巻き取るからである。
 私の友人ボブ・スターンの例を見てみよう。数年前、彼はエクアドルのサリナス沖で、数尾の300Lb級のパシフィック・ブルーマーリンとスタンダップでファイトしたが、私はショートロッドがいかに彼のパワーを見事に伝達するかを見て驚嘆した。揺れるデッキの上で両足を踏ん張り、パワーを伝えるために、ポンピングしつつ腰を前後にグラインドさせる彼の格好を見て、つい腹をかかえて笑ってしまったことは認めなければならない。大型マーリンをポンプアップするときに、ストリップ酒場の踊り子みたいな格好を見せるのはちと辛いものがあるが、それで見事にランディングできればどうってことはない。腰を前後にゆする動作は、ラインを巻き取るポンピングのリズムを保つためにどうしても必要なことなのだから。
 格好はどうであれ、このショートポンプ・テクニックは実に効果的である。ストレスと疲労度という面でもファイティング・チェアのアングラーとさほど変わらず、もしかすると少ないとさえ言えるかも知れない。とはいえ、これは50Lbクラスまでに限って言える事である。念のため、80Lbクラスのタックルを使って超大物マーリンとスタンダップでファイトしようというアングラーがいるとすれば、それは頭のおかしな筋肉マン以外の何者でもない。

 陸上での秤を使った練習と、現場での実際の釣りの間には大きな隔たりがある。ファイティング・チェアの場合、80Lbテストタックルのドラグ強度を26〜30Lbに設定しても、時間さえかければ、超大物マーリンと十分にファイトできる。もっとも、1,000Lb級のマーリンを5分間で捕獲しようなんて言うバカげた風潮にかぶれているアングラーは別である……それは、黒煙をモウモウとあげながら猛スピードでボートをリバースさせ、屈強なデッキボーイがフライングギャフをその魚体に打ち込んでしまう、という釣り方である。80Lbクラス・タックルはあくまでもファイティング・チェアの使用を前提にしたものと考えたい。
 また、最近、店頭に出回っているショートロッドの中には、その使用限界を示す“30〜130Lbクラス”のラベルが貼られたものがあるが、私に言わせれば、これは実に馬鹿げたことである。130Lbラインをスタンディングで使用するなど、まさに気違いじみた話だからだ。

ショートストロークを駆使したスタンダップファイトでは、効果的なラインリカバリーのために、硬いロッドティップが要求される。

 ホワイト・マーリン、ストライプト・マーリン、セイルフィッシュを狙う大抵のアングラーは50Lb以下のタックルを用いており、この場合はスタンダップ・タックルの使用も理にかなっている。同様のことは、400Lb以下のブルー・マーリンにも当てはまる。とはいえ……小型のブルー・マーリンに混じって生涯に一度というような大物がいる可能性がある場合は、なるべく大きなタックルを使いたくなるのが人情というものである。小型のビルフィッシュを大きなタックルで釣っても、それは少しも不面目なことではない。もしかしたら、というアングラーならではの夢に賭けていることなのだから。トーナメントの場合にもこれと同じことが言える。最初から小さい獲物を小さなタックルで狙うより、出来るだけ大きなタックルで大きな獲物を狙うのが当然の心理である。
 さて、スタンダップ・タックルを使用したいと思うアングラーは次の点をくれぐれも考慮して慎重に決断してほしい。一度、スタンダップ・フィッシングを開始したら、少なくともファイティング・チェアのジンバル・アダプターチューブを備えない限り、そう簡単に考えを変えることは出来ないからだ。ヒットした魚が予想以上に大きくて、スタンダップ・フィッシングでは対処できないと判断し、ショートロッドを持ったままファイティング・チェアに座ったとしても、バット部が短いためにリールが両膝の間に挟まってしまい、とても釣りにはならないのである。私は、エクアドルの沖合いでこのような例を何回も見ている。もし、必要が発明の母であるならば、災難は教訓の母である。

最後にもう一度タックルについて

 スタンダップ・タックルについていくらか説明しておこう。現在、全長5ft半から6ftまでのスタンダップ・ロッドが大抵の大手ロッドメーカーによって製造されている。重さはマチマチだが、もっとも軽くて強いのがグラファイト製のものである。お値段はハリますが……。
 リールはビッグゲームがメインならば、スタードラッグのものよりもレバードラッグの方が適している。これは、ファイト中にドラッグ強度を変える必要性が必ず起きるが、その場合でもレバードラッグならばストライクポジションがプリセットであるため、その価を変更しなくても済む。これが出来ないのがスタードラッグの最大の弱みである。

スタンダップ・タックルの上限は50Lbまで。それ以上ヘビーなタックルをあえて使う理由は見当たらない。ファイトに入れば、チェアへの変更がきかないことを忘れずに。

 次にハーネスであるが、これはスタンダップ・フィッシングにとってロッドとリールと同じくらいに重要なギアである。ハーネスとジンバル・ベルトがぴたりとアングラーの体にフィットしていなければ、ショートロッドの利点の多くが失われてしまう。スタンダップ・スタイルで大型魚とファイト中、アングラーは常に体のバランスを微妙に保っていなければならない。もしリールのドラッグが噛んだり、あるいは、もしハーネスがぴったりフィットしていなかったりすれば、ポンピングでロッドを前に倒したとき、体ごと海中にひきずりこまれるような目に遭わないとも限らないのである。ハーネスは必ず体の重心のセンターに来るようにきちんと調節することが肝要だ。それが、前に行き過ぎたり、後ろに行き過ぎたりしてもいけない。これは、旧式のハイライディング・ジンバルベルトを持つキャスティング・ハーネスには出来ない芸当である。
 ジンバルのパッド位置はアングラーの太股上部に合い、ベルトとパッドの幅はアングラーの体形にフィットしたものでなければならない。また、ハーネスを買う前にロッドとリールにフィットするかどうかもチェックしておくべきである。Braid、Sampo、Rip Off、Ruff'n Ready、Harken、Constant Guigo……らの各社製品の中から、自分にもっともフィットするものを探せばよい。そのときには、実際に自分の体につけてみて(むろんロッド&リールも)ロッドティップを誰かに下へ引っ張ってもらい、ポンピング動作のときのバランス等をチェックするべきである。
 ジンバル・ベルトを選ぶ際の注意点は、パッドが充分な厚さを持ち、アングラーの太腿を快適に覆うことができるかどうか、キドニーハーネスがきちんと体にフィットしているかどうか、そのバランスをチェックすることである。最後に、ストラップの長さが体に合うように調節しても充分に足りるかどうかも調べること。
 さて、スタンダップ・フィッシングにチャレンジするための、これらの“ハイヒール装備”がすべて整えば……もはや、おでこには二度とキスされないという自信が沸いてくるであろう。

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