青き海のグレイ

サザン・フロリダに
フィッシュマウント・ファクトリー
グレイ・タキシダミーを訪ねて……

編集部

ポンパーノ・ビーチにあるグレイ・タキシダミー社の工場。
1,000Lbクラスのマーリンのマウントを製作するのであれば、この巨大さはやはり必要なのか。


 自然保護論的な立場で考えれば、たしかにハク製はとても「イケナイ行為」なのかもしれない。たとえ記録をねらう場合であっても、リリースは徹底するべきだという意見もしばしば聞かれる。
 リリースすればいくら捕らえてもよいのかという議論はこの際さておき、同じゲームスポーツであるハンティングとの最大の違いもまた、おそらくこの「リリースできる」という点にあるのだ。自然に対するローインパクトを志向するスポーツアングラーにとって、良心の呵責なり罪悪感なりをわずかながらも打ち消してくれるものこそ「リリース」の考え方だろう。
 とは言うものの、もしも自分がマーリンのグランダーや200Lbポンドのターポン、90Lbのドルフィン(シイラ)を釣る機会に恵まれたなら、はたしてどうだろう。やはり、なんらかの形でそれを永遠に残しておきたいと考えるのではないか。たとえ、それが世界記録として紙の上で永遠に残るとしてもだ。実際にその姿を見ることができ、実際に触れることができるもの。そんなものをアングラーは求めるものだ。
 ハク製は底知れぬアングラーの欲をほぼ完全に満たすことができる唯一の永遠なる実体かもしれない。

フロリダ・キーズのマリーナでは、このような工夫を凝らしたディスプレイを多く目にする。注意して見ていると、そのほとんどがグレイ・タキシダミー社のものであることに気付く。




 フロリダ半島の大西洋岸を南北に貫くインターステイトフリーウェイ95号線を、マイアミから北へ上がること約1時間。ポンパーノ・ビーチにグレイ・タキシダミー社の工場はあった。
 想像していた以上に巨大な建物にいささか驚きつつパーキングに車を停めると、ミラー張りの壁面に透き通ったフロリダ・ブルーの空が眩しい。目を細めて壁面の文字に焦点を合わせると、そこには「グレイ・タキシダミー、世界最大規模の海水魚ハク製製作会社」と読める。

見上げると、澄み切った青の中でグレートホワイト・シャークがアンバージャックを追い回していた。


 「タキシダミー」とは、そのまま「ハク製」の意味だが、フロリダのマイアミ周辺には、こうしたハク製製作会社が数社点在している。中でもグレイ・タキシダミー社の製品は世界中で高い評価を受けており、特にそのリアルなペインティングは特筆に値する。事実、フロリダ・キーズのマリーナやタックルショップなどにディスプレイされているフィッシュマウント(ハク製)の多くはグレイ・タキシダミー社によるものであり、ハワイやオーストラリアでもグレイのマウントは非常に人気が高い。
 ハク製というと、なぜか職人芸的な暗めの世界を連想してしまうが、そこはさすがにアメリカ。グレイ・タキシダミー社の工場は底抜けに明るい雰囲気で、フロリダの空がよく似合った。工場は完璧にマス・プロダクション化されていて、各作業行程ごとにキッチリと工員たちの役割が分担されている。頭上に吊り下げられた無数のビルフィッシュやターポンの下で、彼らは実に活き活きと働いているようだった。
 さて、ひとくちにフィッシュマウントと言っても、使用するマテリアルによって、それは大きく2つのタイプにわけられる。ひとつはグラスファイバーを使用するタイプ。もうひとつは本物の魚体を使用するタイプである。一般に前者はリプロダクションとかFRPマウントと呼ばれ、後者はスキンマウントと呼ばれている。もちろん、それぞれの製作行程はかなり異なっていて、さらに同じFRPマウントでも、部分的に本物の魚体を使用する場合と、100%ファイバーグラスで形成する場合とがある。

パーキングの噴水で高々とビルを突き上げるグランダー。


 今後、フィッシュマウントを注文する可能性が高いアングラーは(そのような機会にぜひとも恵まれたいものだが……)、こうした製作行程の違いを大まかながらも知っておいて損はないだろう。
 まずFRPマウントだが、最初の行程はカチンカチンに冷凍された本物の魚から型抜きするところから始まる。もしも魚が丸ごと工場に送られていれば、魚から直接型を抜くわけである。だが、例えばビルフィッシュのような大型魚の場合は、フィンやビルといった一部分だけが送られてくることがほとんどで、その場合は、送られてきた部分とウェイトなどのデータを基に、すでにストックしてある無数の型の中から適当なものを選び出すことになる。つまり、送られてきた部分だけは本物が使用されるわけである。
 また、魚がリリースされている場合には、推定全長やウェイトといったなんらかのデータを基にして、同じように型を選ぶ。当然ながら、データが豊富にあればあるほど、釣り上げた魚により近いマウントが完成するわけである。

本物の魚から型を起こす作業はこのように行なわれる。魚はナースシャーク。写真は型抜きを終えて、魚を引き剥がしているところ。



これが、その型。どんなに臭う仕事かが、この人のマスクを見れば分かるだろう。

一角には、このように無数のビルの型がストックされている。ビルフィッシュのナニの長さ、太さは、こんなにもバラエティーに富んでいるのだ。


これにFRPを流し込み、マネキンを作る。
 次に、それらの型にFRPを流し込み、マネキンと呼ばれる原形を作る。ビルなど、魚の一部分があれば、この段階でFRPに接合する。その後、マネキンは仕上げの処理と検査を経て、FRPマウントの要であるペイント作業へと移る。グレイ・タキシダミー社が最も重要視している行程である。
 グレイ・タキシダミー社では、ペインティングを担当する職人は「アーティスト」と呼ばれており、他の工員とはっきりと区別されている。シルバーに下塗りされたマネキンに命を吹き込むこと。それが「アーティスト」たちの仕事であることを考えると、その呼び名はなるほど頷ける。


天井には、下塗りを終え、「アーティスト」によるペインティングを待つマネキンが。



この人がマネキンに命を吹き込む「アーティスト」。この時はバラクーダをペインティング中だった。
 以上がFRPマウントの製作行程だが、スキンマウント、つまり本物の魚皮を使用するハク製の製作にはまったく別の作業が必要となる。作業はまず魚体の片側(完成した時の裏側)に穴を開けることから始まる。片側の魚皮を切り取り、そこから全ての肉を抉り出し、掘り出すのである。腐臭の原因となる肉を完全に取り除き、皮一枚となったら、今度はその皮をFRP製のマネキンにすっぽりと被せてしまう。それから魚皮に保存処理を施し、後はFRPマウントと同じく、「アーティスト」の手によるペインティングが施されるわけである。

下塗りを待つ様々な
マネキン魚たち。


 FRPマウントとスキンマウントでは製作行程にこれだけの差があるのだが、実際にそれらの完成品を見比べてみて、どちらがスキンマウントかを言い当てるのは、意外と難しいものだ。したがって、どちらを選ぶかは、あくまでもアングラー本人の倫理観と懐具合によるのではないだろうか。どんな大物でもリリースに徹するか、それとも殺めるか。結局のところ、判断の基準はそこにある。いずれにせよ、ハク製は作れるのだから……。
 グレイ・タキシダミー社では、スキンマウント、FRPマウントともに90日以内の完成を約束している。ウマイ!ハヤイ!がモットーであるらしい。ハク製業界の最古参というわけでもないグレイ・タキシダミー社(それでも35年以上の歴史がある)が、マーケットをほぼ独占するほどまでに成長した理由は、実はこのあたりにあるのかもしれない。
 なお、グレイ・タキシダミー社のフィッシュマウントに関するすべての問い合わせは、総輸入元の「ソルトウォーター・ハウス」まで。
ソルトウォーター・ハウス
神奈川県藤沢市鵠沼藤ケ谷2-2-9
電話0466-27-8119 FAX.0466-23-7326

すべての工程を終了して、じっと乾燥するのを待つフィッシュマウント。この中のいくつかは、きっと日本にもやってくるのだろう。





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