BILLFISH ON FLY(1)
|
フライタックルによる
|
![]() |
| フィッシングにおいて、リールはロッドと並んで重要なものだが、それがソルトウォーターフライフィッシング、とりわけ相手がビルフィッシュとなると話はよりシリアスになってくる。この釣りにおけるフライリールの役割は、ただラインをストックしておくための器などでは決してない。まさにファイティングウエポンと言えるだろう。今回は、性能の差がロッドよりも露骨に表われるとされるビルフィッシュ用フライリールの実践案内だ。 YOU GET WHAT YOU PAY ビッグゲーム用フライリールの性能は支払った金額に比例する フライタックルによるビルフィッシングを成功させるか否かは、アングラーのテクニックよりむしろタックルの善し悪しが大きく左右すると言っても過言ではない。そのタックルの中でもリールは特に重要である。たとえば、ロッドの性能に多少問題があったとしても、ランディングが「多少」厄介になるだけですむが、フライリールに問題があれば、それが原因でロストフィッシュしてしまう可能性が非常に高い。 ことビッグゲーム用のフライリールに関する限り、その性能は支払った金額に比例すると思って間違いないだろう。つまり、お金をケチれば、それなりのものしか手に入らないということだ。 |
![]()
|
まず使用する場所が海だということを思い出してほしい。安物のフライリールは、使用後の真水洗いを怠ると間違いなくほんの数日でサビてしまう。フライアングラーにとって海水は想像以上に手ごわい相手なのだ。 敵は海水ばかりではない。相手がソルトウォーターゲームフィッシュの中でも最大級の大物であることを忘れてはならない。たしかにフラットでのボーンフィッシュやパーミットなら、トラウトやサーモン用のフライリールでも何とかなるかもしれないが、相手がオフショアのビルフィッシュでは「何とかなる」という状況はまずありえない。時速50〜60マイルで何百ヤードも突っ走るビルフィッシュとやり合い、1日中海水にさらされてもビクともしないリールこそが要求されるのだ。ソルトウォーター・フライリールの高級機種すべてがアノダイズ処理(金属に保護薄膜を与えるための電解処理)されている理由も、耐塩水のことを考慮してなのだ。(この処理は決して安いものではない) |
| アルミ・ダイカストから造られていた初期のリールは、アノダイズ処理の段階で高圧や熱のために微妙な誤差が生じてしまい、満足できる結果は得られなかった。だが現在では、旅客機の機体に使われるのと同じ6061-T6アルミニウムやステンレス鋼材から直接削り出し加工されている。ドラッグシステムにはやはりステンレス・スティールのベアリングが使用され、ドラッグのディスクには金属、テフロン、コルクが使用される。スプールもまたボディーと同じアルミ材からの削り出しである。驚くのは、スプールが超高速で回転するにもかかわらず、ハンドルとの微妙なカウンターバランスによって、回転時のブレがほとんど生じない点だ。 ようするに、これらの品質や技術がすべて価格に反映されているわけである。高性能なソルトウォーター用フライリールは、それだけに決して安くはない。高性能と呼ばれるリールとは、およそ500〜1,300ドルの価格帯の品物だが、あるメーカーなどは1,600ドルを超える小売価格で販売されているものもある。 |
| SAILFISH IS NOT MARLIN セイルフィッシュとマーリンは区別して考える 一口にビルフィッシュ用と言っても、リールはセイルフィッシュ用とマーリン用に区別して考えるべきだろう。巨大なマーリンを相手にしようと思えば、セイルフィッシュ以上に金をかけなければならない。一般にセイルフィッシュ用フライリールに要求されるのは、30Lbのバッキングが350〜400ヤード巻けるだけのラインキャパシティーと高性能のドラッグシステムである。 この条件に当てはまるフライリールは多いが、有名なのはビリー・ペイトのターポンやフィンノールの#4と#4&1/2、エーベルの#4、STHグランドスラム、サイエンティフィック・アングラーズのシステム2(モデル1213)やシステム3などである。(当時ビリー・ペイトの小売価格は約450ドル、フィンノール#4は約500ドル、エーベル#4は550ドル、STHは450ドル、システム3は525ドルとなっていた) |
![]()
|
| 私はこのクラスのリールとしてシステム2を入れたが、それは400ヤードのキャパシティーとかなり優れたドラッグシステムを持つ唯一「安い」ビッグゲーム用フライリールだからである。確かに、ドラッグの性能を比べれば、他の高級機種には及ばないのだが、セイルフィッシュとやり合う程度なら特に問題はない。セイルフィッシュ用の安いリールという条件なら、マーティンの12-Mにも合格点を与えられる。システム2とマーティンは共に約150ドルで買うことができる。 |
![]()
|
比較的最近発売されたビッグゲーム用のフライリールで気になるのは、ハリソンのジュピターである(最近といっても発売後すでに5〜6年は経っているはずだ)。私自身、このリールをビルフィッシュ用として使用した経験がないので何とも言えないのだが、チタン製のボディーは非常に軽量で、自重はたったの11.9oz(333g)しかない。それでいて30Lbのバッキングが1,000ヤード+フライラインを巻けるというのだからスゴイ。ラインキャパもたしかにスゴイが、値段もまたスゴイ。アンチリバースモデルの小売価格は確か1,300ドルであった。 これらの他にも,セイルフィッシュ用として使用可能なフライリールはいくつかある。たとえば、カチノやシーマスターなどがそうだが、現在これらを一般の小売店で入手することは非常に難しい。 |
| セイルフィッシュという魚は、アメリカ東海岸では特にそうだが、決して「巨大な」魚ではないということをここでひとつ思い出してほしい。フロリダ沖でキャッチされるアトランティック・セイルフィッシュのアベレージウエイトは40〜50Lb。それに対して、フロリダのキーズでは100Lbオーバーのターポンがフライでキャッチされる。フライによるターポンのIGFA記録はフロリダのホモサッサでキャッチされた188Lb(アングラーはビリー・ペイト、ガイドはリー・ベイカー)である。セイルフィッシュのアベレージが100Lb近くある場所となると、おそらくメキシコや中南米の大平洋側だけだろう。アメリカ東海岸でのアベレージサイズなら、上にリストアップしたフライリールで難なくこなすことができるはずだ。 TRUE MARLIN REELS マーリン用フライリールとは? |
| したがって、ビルフィッシュ用フライリールとしての真価が本当に問われるのは、パシフィック・セイルフィッシュとマーリンとのバトル時ということになる。私が初めてパシフィック・セイルフィッシュをキャッチしたのはかれこれ10年前、コスタリカ沖でのことだった。魚のウエイトは105Lb。私はビリー・ペイトのターポンを使っていたのだが、その時私は、いざビルフィッシュに挑む時には、全ての種類とやり合えるだけのリールを使う必要があると実感したものだ。 現在ショップに並べられているリールの中で、本当に「マーリン用」と呼べるものはそう多くはない。ビリー・ペイトのマーリン、エーベル#5(生産中止のため、入手は不可能)、そしてフィンノール#5などである。ビリー・ペイトのマーリンは、30Lbのミクロンまたはダクロンバッキングを600ヤード巻くことができ、エーベル#5は同じく30Lbを900ヤード巻ける。フィンノール#5はのラインキャパは30Lbを750ヤード。もちろん、これらはバッキングの他に、25〜30ftのファストシンキング・シューティングヘッドを巻くことが可能だ。ドラッグシステムは3機種ともにエクセレント! 私自身、この3機種すべてでビルフィッシュをキャッチしている。小売価格はペイトのマーリンが約450ドル、フィンノール#5が約650ドル、エーベル#5が1,200ドル程度であった。 |
![]()
|
| これら3機種のうちふたつ(ビリー・ペイトとフィンノール)にアンチリバースモデルが用意されている。あえて説明するまでもないが、アンチリバースとは、スプールの回転方向とは逆方向にハンドルが回せる(つまり、ラインが出ている間、ハンドルが止まっている)タイプのこと。ビルフィッシュ用として使用するなら、私自身はアンチリバースが好みだ。マーリンのようなビッグフィッシュとのバトル中に起こる様々なミステークにも(私はよくヘマをやってしまうのだが)、アンチリバースタイプなら何とか対応できる。ファイト中のミスは、たとえそれが一瞬のことであっても、ティペット切れをひき起こす可能性があるのだ。しかし、フライフィッシャーマンの多くはやはりダイレクトドライブを好むようだ(故リー・ウルフもそうだった)。結局のところ、アンチリバースかダイレクトドライブかの選択は好みの問題だろう。エーベル#5やフィンノール#5のような高性能のダイレクトドライブであれば、マーリン用としても素晴らしい機能を発揮するはずだ。 |
![]()
|
今後、注目したいビッグゲーム用ソルトウォーターフライリールを挙げるとすればサラシオーネという事になるだろうか…。これは自重が2Lb(約1kg)とかなり重く、30Lbバッキング1,000ヤードのキャパを持つもので、耐塩水のアノダイズ処理はもちろんのこと、3:1のギア比という他にはない特徴を持っている。タイプとしてはアンチリバースで、ドラッグのコルクディスクは直径3インチ半もある。ドラッグ調節は一般的なダイヤル式ではなく、トローリング用リールなどに見られるレバー式を採用している。まさにビッグフィッシュ専用のフライリールと言えるだろう。 かつて、私がパナマのトロピック・スターロッジ(今ではほとんど伝説として語られている)を訪れた際、このサラシオーネのプロトタイプを使ってみたのだが、そのドラッグの使いやすさとラインキャパは衝撃的でさえあった。おそらく、このリールであればどんなに巨大なマーリンでもキャッチすることができるはずだ(もちろん、現在市場に出回っているフライロッドに、それほどパワフルなものがあればの話だが)。優れたソルトウォーターフライリールは決して安い代物ではないが、フライロッドを手にマーリンを求めて世界を釣り歩くアングラーにとっては、間違いなくその値段の価値はあるはずだ。 |
| RIGHT-HANDED OR LEFT-HANDED 右巻きか左巻きか ソルトウォーター用フライリールには、たいてい右巻きと左巻きが用意されている。どちらを選ぶのか(つまり、利き腕で巻くのか、利き腕でないほうの手で巻くのか)はあくまでも好みの問題なのだが、私自身は左巻きを使用している(私は右利き)。というのも利き腕である右腕のほうが左腕よりも強く、強い右腕でロッドを持ったほうがビッグフィッシュとのファイトがしやすいことに気付いたからだ。それからというもの、私はビッグゲームのフライリールをすべて左巻きに替えてしまった。同じソルトウォーターのゲームフィッシュと言えども、ボーンフィッシュとマーリンではパワーが全く違う。ことマーリン用に関する限り、私の選択は過っていないと思う。 |
| ビルフィッシュ用フライリールとしてもうひとつ重要なのは、ドラッグをどれだけ緩めることができるかである。使用しない間、ドラッグをフリーにしておくことは当然としても、ビルフィッシュがフライにストライクした時にフリードラッグにすることがよくあるからだ。ストライク後の数秒間はラインをそのまま送り出すということを、私はよくする。ドラッグの抵抗がなければ、魚はフライを飲み込もうとする。そして魚が泳ぎ去ろうとすると、フックは魚の口の横にしっかりセットされるのである。 今回紹介したような高性能のリールには、ほとんどメンテナンスをする必要はないが、使用後の真水洗いだけは忘れずに行うべきだろう。そして数年に1回はメーカーに送って、ドラッグシステムやベアリングなどをチェックしてもらう。これさえ欠かさなければ、リールはまさに一生モノだ。 ※編集部注:本文中の価格はすべてアメリカ国内での店頭小売販売価格。日本での店頭小売価格は、関税や輸入手数料が加算されるために、本文中の価格を円換算したものより当然高くなる。 |
![]()
|
| 筆者紹介/ ジャック・サムソン(JACK SAMSON)
|
「フィールド&ストリーム」誌の前編集長。現在は「マーリン」誌のフライ・フィッシング部門、及び「フライ・ロッド&リール」誌のソルトウォーター部門の編集を担当。ソルトウォーター・フライフィッシングの洗礼を受けたのは、60年代半ば。ボーンフィッシュ、パーミット、ターポンといったフラットの釣りから始まり、やがてシイラ、キハダ、ビンナガ、オキサワラといったオフショアの魚までカバーするようになる。ビルフィッシュに取り憑かれたのは、1972年のトーナメントがきっかけ。フロリダキーズ沖でアトランティック・セイルフィッシュをキャッチした後、83年にはジャマイカ沖で43Lbのアトランティック・ブルーマーリンを上げる。アトランティック・ブルーをフライでキャッチしたのは世界で2人め。85年にはコスタリカにて105Lbのパシフィック・セイルフィッシュをキャッチ。続いてメキシコのマサトランにて131Lbのストライプト・マーリンを射止める。89年の第1回インターナショナル・フライフィッシング・トーナメントでチーム優勝。91年にはオーストラリアにて50Lbのブラックマーリンをキャッチ。同年10月にはベネズエラで60Lbのホワイトマーリンをキャッチ。両洋のセイルフィッシュと4種類のマーリンをフライでキャッチしたのは、ビリー・ベイトに次いで2人め。そして92年の8月、念願のパシフィック・ブルーマーリンをキャッチし、史上初の7ビルフィッシャーとなった。著書に「ソルトウォーター・フライフィッシング」がある。 |