BILLFISH ON FLY(3)

ビルフィッシュ用フライパターン

コルクポッパーの時代から、
現在はイミテーションストリーマー&スライドポッパーへ

文/ジャック・サムソン
訳・構成/編集部

1962年、フロリダキーズでウェブスター“ドク”ロビンソンが史上初のフライフィッシングによるビルフィッシュ(アトランティック・セイルフィッシュ)を釣って以来、すでに40年近い年月が経過しているわけだが、ビルフィッシュ用として使用されるフライパターンにもこの間の時の流れは確実に変化を及ぼしているようだ。まず、フックはシングルからタンデムに変わり、ポッパーヘッドの主流もコルク材の固定式からウレタンフォーム材のスライド式へと移った。今回は、フライによるビルフィッシングという比較的新しい釣りの歴史の中で、特にフライパターンに焦点を絞り、時代による傾向の推移と最新のトレンドを紹介していこう。


ビリー・ペイトの定番フライ。両洋のセイルフィッシュと4種のマーリンをキャッチしたのもコレ。ホワイト・サドルハックルを使用したシンプルなパターン。


その名もピンク・スクイッド・ビルフィッシュ・ポッパー。ポッパーヘッドはスライド式ではなく、固定型。


フロリダ州アイラモラーダにある「World Wide Sportsman」で販売しているディアヘアーを使用したビルフィッシュフライ。

始まりはドク・ロビンソン
彼の後継者たちはやがて
ポッパーヘッドの材質にこだわりだした


 かつてフロリダ・キーズで、ビルフィッシュを釣るためのフライといえば、数枚のフェザーを取りつけたコルク片を意味していたものだ。1962年、フロリダ・キーズの沖合いで74&1/2Lbのアトランティック・セイルフィッシュを釣り上げたウェブスター“ドク”ロビンソンが使ったフライ。この相当にプリミティブな創造物は、しかし、今日のスタンダード・パターンになっている。その白色のコルクポッパーは腹側が平らで、同じく白色のフェザーが2枚ほど取りつけられていた。このフライパターンと妻ヘレンのティージング・テクニックという黄金のコンビは、その後、フロリダ沖で実に多くのセイルをキャッチし、1965年にはバハ・カリフォルニア沖で145Lbのストライプト・マーリンをキャッチしたのである。
 当時、ドクは表層でのポッパーのアクションこそがストライクを誘うカギだと考えていたが、この考え方が彼に続く多くのアングラーたちにも継承された。1970年代初めには、ビリー・ペイトがやはり白色のコルクポッパーを用いてビルフィッシュに挑んでいた。もっとも、彼の定番はやがてタンデムフックのホワイトストリーマーに取って代わり、両洋のセイルフィッシュと4種のマーリンという輝かしい成功を彼にもたらした。
 また、アメリカ西海岸の可能性を開拓した名ソルトウォーター・フライフィッシャーマン、故ハリー・カイムもまたバハ・カリフォルニア半島の東岸において、すでに1960年代からフライによるビルフィッシングに挑んでいた。ボディー材にウレタンフォームを用いた彼のフライ「テューティー・フルーティー」は、相当な数のセイルフィッシュを誘い出したが、ついにマーリンをキャッチすることは叶わなかったようだ。カイムのフライに特徴的なのは、ボディー材にウレタンフォームを使用していた点である。フォーム材のボディーは四角くカットされており、後部にはサドルハックルが取りつけられていた。カイムはフライ全体をオレンジ色に染め上げ、マジックペンで点々模様をつけていたのである。フックには彼の信念から7/0や8/0といった巨大なものが用いられていた。

 オレンジという色は、ビルフィッシュ・フライフィッシングのもうひとりの先駆者であるウィンストン・ムーア(彼は実に100尾以上のセイルフィッシュをフライでキャッチしている)のお気に入りでもあった。彼が最初に試みたのは、ちょうどドク・ロビンソンが使用したのと同じ白色で平底のコルクポッパーに白色のフェザーを取りつけたものであったが、ムーアはすぐにコルク材のポッパーヘッドに対して疑問を抱き始めた。
「私がコルクポッパーを使い始めたのは1959年頃。2年ほどコルクポッパーを使い続けたが、結果は悲惨だった。たしかに魚は夢中になってフライを追いかけてきたが、浮力が高すぎるために弾かれてしまい、なかなか口にくわえこむことができないのだ。私はイライラからほとんど気が狂いそうだった。これが原因でいったい何尾の魚を逃がしたことか。そこで、ポッパーヘッドに適したマテリアルを求めて色々と実験した末、最終的に落ち着いたのがフォーム材だった。充分な浮力がある上に、適度に水を吸収し、水面で跳ね回ることがない。私のフライはたしかに不格好かもしれないが、フライが芸術作品である必要はないからね」ムーアはスライド式のポッパーヘッドを採用した最初のビルフィッシュ・フライロッダーでもある。
 ムーアとは対照的に、ビリー・ペイトは自分のストリーマー(ホワイトのサドルハックルストリーマー)に何らかの改良が必要だとは考えなかったらしく、少なくとも色に関しては白を通している。だが、ここ10数年、彼のショックリーダーにもフォーム材のポッパーヘッドが取りつけられているようだ。
 この分野で忘れてはならないもう一人のパイオニア、ステュー・エイプトもまたフライへの不必要な装飾を否定している。1965年にパナマのパイナス・ベイでキャッチした136Lbのパシフィック・セイルフィッシュは現在もなお12Lbティペットクラスによる世界記録である。
 故リー・ウルフのビルフィッシュ用フライは、ドク・ロビンソン以来のスタンダード・パターンとベイトフィッシュのリアルイミテーションとの折衷とも言えるもので、タンデムフックにストライプ・フェザー、ブライトなグリーン&イエローのフェザーを配したパターン。1967年にエクアドルのサリナスで148Lbのストライプト・マーリン(12Lbティペットクラスによる現世界記録)をキャッチしたのも、このフライである。

キャム・シグラー考案によるビルフィッシュ・チューブフライ。中心にパイプが通っていて、その時の状況に合わせてリギングすることができる。


ドン・ドラウンによるビルフィッシュフライ。ドン・ドラウンは典型的なマッチ・ザ・ベイト派のタイヤー。リアル・イミテーションを得意とする。


同じくドン・ドラウンによるビルフィッシュフライ。こちらはイミテーションと言うよりもファンシーフライと呼ぶべきパターン。



1970年代、筆者が最初のセイルフィッシュをキャッチした時に使用していたコルクボディーのビルフィッシュポッパー。


筆者がタイイングしたバラオ(バリフー)のイミテーション・フライ。


こちらは同じく筆者によるドラド(マヒマヒ)イミテーション。

「マッチ・ザ・ベイト」の革命を経て
更なる進化を遂げるイミテーション

 しかし、現代のビルフィッシュ・フライアングラーの中には、より「マッチ・ザ・ハッチ」的なアプローチを提唱する一派もある。アーニー・シュワイバートが唱えた「マッチ・ザ・ハッチ」の思想は、その時にトラウトが捕食している水生昆虫にフライパターンをマッチさせるというものだが、ベイトフィッシュを意識して大きなタンデムフックに巻かれたストリーマーフライは「マッチ・ザ・ハッチ」ならぬ「マッチ・ザ・ベイト」の論理に合致していると言えるだろう。初期に使われたシンプルなパターンに比べて、こうしたリアルなパターンのほうがより効果的だと証明する方法が特にあるわけではないのだが、これらの洗練されたフライがコンスタントにビルフィッシュをキャッチしているのは確かに事実である。
 ジョー・パトラックもまた、こうしたビルフィッシュ用のリアルフライを最初に創作したタイヤーの一人である。タンデムフックにブルー&ホワイトのフェザーを配した彼のバラオフライには絶大なアピール力がある。1990年のインターナショナル・ビルフィッシュ・フライ・トーナメントでは、このフライを使用したジム&ケリー・ワット夫妻が合計10尾のセイルフィッシュをキャッチし優勝している。各ショップのメイルオーダーカタログにも、ビルフィッシュ用フライとして彼のバラオフライが必ずといっていいほど紹介されている。私自身も、オーストラリアでのブラックマーリンや、ベネズエラでのホワイトマーリンをこのフライでキャッチしている。
 ポッパーヘッドに関する話のところでウィンストン・ムーアの意見を紹介したが、実は私も彼と同じ経験をしている。私がコルクポッパーを使い始めたのは1970年代半ば。ビリー・ペイトが初期に使用していたシングルフックポッパーと同じモデルで、私はそれにマスタッド34007の3/0をトレーリングフックとしてセットしていた。ところが、期待を抱いて使ったにもかかわらず、実際は多くのセイルフィッシュを逃がす結果になってしまった。1989年のインターナショナル・ビルフィッシュ・フライ・トーナメントでは、タンデムフックのコルクポッパーを使って優勝することができたとはいうものの、コルクというマテリアルには納得できない部分があった。現在では、ボディーにはコルクよりもソフトなマテリアルが必要だと実感している。ボディーが硬いと、どうしてもフックアップ率が悪いのだ。

 そう考えると、タンデムフックに巻いたストリーマーの頭にソフトなウレタンフォーム材のポッパーをセットするという傾向は、実に理にかなったものだと言える。ビルフィッシュがフライをくわえると、ポッパーヘッドは押し潰され、セットフックした時にフックが刺さりやすいのである。
 淡水のフライフィッシャーマンとして知られるキャム・シグラーはビルフィッシュに関してもかなりの経験を持つが、彼が開発したビルフィッシュ用チューブフライには、その場の状況に応じた「マッチ・ザ・ベイト」のアプローチを可能にする斬新なアイデアが取り入れられている。フックシャンクに沿って塩ビ製のパイプが巻き込まれており、アングラーは数分のうちにその場で様々なバリエーションを作ることができるのである。
 私がベイトフィッシュのイミテーション・パターンを巻き始めたのはかなり前のことだが、現在では他のパターンは一切使わなくなってしまっている。ティーザーに寄ってきたビルフィッシュが、いわゆるスタンダード・パターンのフライをまるで無視すうことが度々あったからである。私がイミテーションしたのは、ドラド(シイラ)、フライングフィッシュ(トビウオ)、ボニート、バラオ(バリフー)、マレット、マッケレルといったベイトフィッシュたち。現在、これらのフライはペンシルバニア州ピッツバーグのコマーシャル・タイヤー、オットー・ベックによってタイイングされている。
 フライファクトリー社のドン&ジャッキー・ドラウン夫妻によるフライも非常に独創的かつ効果的だ。7/0や8/0といった巨大なフックを用い、タンデムに巻いたビルフィッシュ用フライの数々は実に魅力的なものである。これまでに私はバラオやドルフィン、ドールアイといった彼らのフライを使ってビルフィッシュをキャッチしているが、印象深いのは、やはり何と言ってもパナマの「トロピック・スターロッジ」沖で掛けた400Lbクラスのパシフィック・ブルーマーリンである。30分のバトルの末に結局ブレークしてしまったのだが、この魚はドラウンのボニートフライ(8/0のタンデムフックに巻かれた巨大なロイヤルブルーのフライ)にストライクしたのだ。

これもドラドのイミテーションだが、フェザーの色が異なる。激しく体色を変化させるシイラのマッチ・ザ・ベイトはそれだけ微妙ということか。


筆者によるグリーン・マレット・ビルフィッシュフライ。


こちらはブルーマレット。


 ビルフィッシュ用のリアルイミテーションフライは、使用するマテリアルの量の多さやタイイングの手間暇といった理由から決して安いものではない。ほとんどの小売価格は18〜25アメリカドルである。しかし、高いとはいっても、1回の釣行に必要なあらゆる費用(航空券、宿泊費、ボートのチャーター代、飲食費etc.)の中で、フライは最も安いものに違いない。まあ逆に言うなら、それだけカネが掛かる釣りということだが……。それにしても、1回のストライクでフライがボロボロになってしまうような状況はまず考えられないので、充分に元は取れるというものだ。かつて1本のフライがボロボロになるまでに、5尾のパシフィック・セイルフィッシュをキャッチしたことがある。フライというものは、少なくともその程度には丈夫にできているようだ。

筆者紹介/
ジャック・サムソン
(JACK SAMSON)
「フィールド&ストリーム」誌の前編集長。現在は「マーリン」誌のフライフィッシング部門、及び「フライロッド&リール」誌のソルトウォーター部門の編集を担当。ソルトウォーター・フライフィッシングの洗礼を受けたのは60年代半ば。ボーンフィッシュ、パーミット、ターポンといったフラットの釣りから始まり、やがてドルフィンフィッシュ、ツナ、アルバコア、ワフーといったオフショアまでカバーするようになる。ビルフィッシュに取り憑かれたのは、1972年のトーナメントがきっかけ。フロリダキーズ沖でアトランティック・セイルフィッシュをキャッチした後、83年にはジャマイカ沖で43Lbのアトランティック・ブルーマーリンを上げる。アトランティック・ブルーをフライでキャッチしたのは世界で2人目。85年にはコスタリカにて105Lbのパシフィック・セイルフィッシュをキャッチ。続いてメキシコのマサトランにて131Lbのストライプト・マーリンを射止める。89年の第1回インターナショナル・フライフィッシング・トーナメントでチーム優勝。91年にはオーストラリアにて50Lbのブラックマーリンをキャッチ。同年10月にはベネズエラで60Lbのホワイトマーリンをキャッチ。両洋のセイルフィッシュと4種類のマーリンをフライでキャッチしたのは、ビリー・ペイトに次いで2人目。そして92年の8月、念願のパシフィック・ブルーマーリンをキャッチし、史上初の7ビルフィッシャーとなった。フィッシング&ハンティングに関する著書は計15冊にも及び、中でも「ソルトウォーター・フライフィッシング」は名著の評価が高い。


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