フライフィッシングの
更なる可能性を探究する

PART2 カジキをフライで狙う
BILLFISH ON FLY

文/ジャック・サムソン
訳・構成/編集部

パナマでキャッチしたパシフィック・セイルフィッシュと筆者。


フライフィッシングによる初めてのビルフィッシュがランディングされてから、実に半世紀近い時が流れた…。アメリカでは新たなジャンルとして注目されているフライによるビルフィッシングだが、残念ながら日本のフィールドでは未開拓である。ここ数年のビッグゲーム・トーナメント・シーンを見ても明らかなように、黒潮流れる日本の海はカジキの漁場として一級の要素を備えている。これを放っておく手はない。そこで、ウェブ・マガジン『スポーツアングラーズ』では、今後カジキのフライフィッシングに関するノウハウを紹介したい。筆者はジャック・サムソン。両洋のセイルフィッシュと4種のマーリンをフライでキャッチしているツワモノである。「フィールド&ストリーム」誌、元編集長のジャーナリスティックで切れ味のよいコラムを存分に愉しんでほしい。今回は第1部として、フライによるビルフィッシングの歴史について述べた「ビルフィッシュ・オン・フライ〜究極のスポーツ〜」と、フライロッドに纏わる諸説を最先端の現場から紹介した「フライロッド・フォー・ビルフィッシュ」の2話を一挙に掲載する。

FLYFISHING'S ULTIMATE SPORT
ビルフィッシュ・オン・フライ〜究極のスポーツ〜

 ヘビーにしろライトにしろ、コンベンショナル・タックルによるビルフィッシングは、すでに何十年もの歴史がある。ところが、フライロッドによるそれはどうだろう。そう、フライタックルによるビルフィッシングは、スポーツフィッシングの歴史の中では比較的新しい領域だ。現在では、世界各地でかなりの人気を得ているフライタックルによるビルフィッシングだが、その人気の理由はおそらくフライフィッシングという釣り方が何世紀にも渡ってトラウトやサーモン、バスといった小型の淡水魚だけに限られていたからにちがいない。その意味で海のフライフィッシングは驚くほど急速に発達した釣り方だと言える。だが、実際に、そのような「新たな試み」が一般のアングラーたちに定着し、浸透したのはここ10数年のことである。

20Lbティペットクラスの導入

 ビルフィッシュをサーフェスに誘い出すためには、通常のコンベンショナル・タックルによるビッグゲームフィッシングで使われるのと同じベイトやルアーがトローリングされる。ただひとつ違うのは、それらにはフックがついていないという点だ。ビルフィッシュのアタックが始まると、それらのベイトは急いで回収される。エサを探す魚に向けて次にキャストされるものこそ、フライである。フライロッダーにとっては少なからず驚きではあるが、ビルフィッシュは実によくフライを追う。フライへの反応は他のゲームフィッシュとまったく変わるところはない。最大の違いは、一度フックアップすれば、他のどんなゲームフィッシュよりも速く、強く、そして遠くに走ることだ。
 ソルトウォーターのフライタックルを扱っているショップには、ロッドからフライ、はてはノットに至るまで、ビルフィッシュをキャッチするためには何が必要なのかといった疑問質問が常に飛びかっている。不幸にも、こうしたショップのすべてが適切なタックルを揃えているわけではないし、また、ビギナーに教えられるだけの知識を身につけたインストラクターがいるわけでもない。
 だが、これはショップやタックル業界の責任ではない。ここ数年の海のフライフィッシングの流行は、以前からその魅力に取り憑かれている者にとっては驚きでさえある。それほどまでに人々を夢中にさせるのは、おそらく、この釣りのユニークさのためだろう。フッキングやファイティング、ボーティングといった面白さをも含めて、一見ヤワなフライタックルで挑むビッグゲーム・フィッシングは、流行するに足る理由を充分に備えている。
 タックルに関しては、いくつかのメーカーが素晴らしい商品を発売している。ビルフィッシュ用のフライロッド、充分なラインキャパシティーがあり、ドラッグ性能のよいフライリール、フライラインにしても、海水という過酷な条件下での使用に耐え、ビルフィッシュのパワフルな引きにも耐えうる製品がいくつか発売されている。
 IGFAも、ソルトウォーター・フライフィッシングの驚異的な発達と人気の成長に呼応するかのように、既存の2、4、8、12、16Lbティペットクラスよりも強い20Lbティペットクラスを新たに導入した(1991年4月1日より)。



1965年、ウェブスター・ロビンソン(左)がキャッチした145Lbのストライプト・マーリン。
The Great Pioneers〜先駆者たち〜

 こうした流行の許では、いささか信じがたいものがあるが、フライによって初めてビルフィッシュが釣り上げられたのは実に35年以上も前のことである。現在知られている中で最も古い記録は、偉大なフライロッダー、故ウェブスター・ロビンソンとその妻、ヘレンによってフロリダ・キーズ沖で釣り上げられた74.5Lbのセイルフィッシュである。このスポーツ〜フライタックルによるビルフィッシング〜はこの2人によって開拓されたと言っても過言ではない。

 フックなしのベイトを引っぱるティーザー・ロッドをヘレンが操り、コルクボディーのポッパーをドク(ロビンソンの愛称だ)がキャストする。キーズ沖での成功の後、ドクはメキシコのバハ・カリフォルニアに赴き、同じポッパーでパシフィック・セイルフィッシュをキャッチした。また、1965年には、同じポッパーを使って145Lbのストライプト・マーリンを上げている。これはまさにグレートキャッチである。
 ロビンソンに次いでセイルフィッシュをキャッチしたのは、ベテラン・キャプテンのリー・カディーだった。1964年、場所はキーズ沖。魚のウエイトは47Lbであった。しかし、IGFA公認の記録としては、ステュー・アプトがキャッチしたパシフィック・セイルフィッシュが最初である(1965年6月25日、パナマのピニアス・ベイ)。
 ドク・ロビンソンが最初のストライプト・マーリンをキャッチしたのにまるで時を合わせるようにして、148Lbのストライプト・マーリンが故リー・ウルフによって釣り上げられた。これは12LbティペットによるIGFA世界記録として認定されることになった。1967年5月、エクアドルのサリナス沖でのことである。この記録は私がこの原稿を書いている今もなお破られていない。

1965年、ステュー・アプトがキャッチした136Lbのパシフィック・セイルフィッシュ。これは12Lbティペットクラスによる現世界記録である。


1978年、フライによって初めてキャッチされた96Lbのアトランティック・ブルーマーリン(16Lbティペットクラス)。アングラーはビリー・ペイト。
 1970年の2月10日には、同じサリナス沖で146Lbというウルフの記録にせまるサイズのストライプがビリー・ペイトによってキャッチされた。が、彼は16Lbティペットを使用しており、いずれにしてもウルフの記録には及ばなかった(16Lbティペット・クラスのストライプト・マーリンの現世界記録は1995年8月、コスタリカ・ココス島沖でチャールズ・トンブラスによって達成された182Lb)。また、ビリー・ペイトはアトランティック・ブルーマーリンをフライで最初に釣ったアングラーでもある。魚は96Lb、1978年キューバのハバナ沖でのことである。この記録は1990年8月18日にジム・グレイがヴァージン諸島セント・トーマス沖で159Lbをキャッチするまで(16Lbティペットクラス)破られることはなかった。フライロッドによる2尾目のアトランティック・ブルーマーリンははばかりながらも筆者によって1983年3月にジャマイカのラウンドヒル沖にでキャッチされた。ウエイトは43Lbで、ペイトの記録にはまったく及ばなかったが……。(ちなみに現在の同クラスのレコードは1998年3月に上記チャールズ・トンブラスによって達成された208Lb。)
 フライロッダーにとって、小型のブラック・マーリンは格好のターゲットである。オーストラリアのクイーンズランド、ケイプ・ボウリング・グリーン沖やケアンズでは、50〜100Lbクラスという実にフライタックル向きのサイズを狙うことができる。最初にブラックをキャッチしたのは、やはりビリー・ペイトだった。46Lb4ozを8Lbティペット、38Lb10ozを12Lbティペット、そして42Lb6ozを16Lbティペットでそれぞれキャッチしている(1972年)。筆者もまた1990年の8月に16Lbティペットによって約50Lbのブラックをタグ&リリースした。

パシフィック・ブルーマーリンへの挑戦




マレット・ビルフィッシュ・フライとドラド・ビルフィッシュ・フライ。どちらも筆者のオリジナルパターン。
 以上のようなアングラーたちによって、60年代後半から70年代前半にかけて、フライロッドによるビルフィッシングの可能性が探究されたわけだが、彼らが使用していたフライラインは既製の90ftフローティングもしくはシンキングであった。しかし、こうしたラインの径や長さは決して満足のいくものではなかった。ビルフィッシュがジャンプした時など、水中での抵抗が強いために、ティペットが切れてしまうというトラブルがしばしば起こったのだ。現在、ベストなラインシステムとして考えられているのは、25〜30ftといった非常に短いファーストシンキング・シューティングヘッドである。キャストンしやすさはもとより、ライン径が小さいので水中での抵抗も少ないのである。
 チャールズ・マザー教授はその著書「ビルフィッシュ(Billfish)」の中で、ビルフィッシュの最高遊泳速度は時速50〜70マイル(80〜100km)にも達すると述べている。100Lbを超えるほどの魚がその速度で泳げば、ラインやリーダー、バッキングにかかる抵抗は相当なものになるだろう。

 こうした抵抗や急な衝撃を少しでも和らげるために、モノフィラのランニングラインを使うアングラーは多い。100ftのモノフィラ・セクション(30〜45Lb)を、バッキングとフライラインの間に設けるのが一般的だ。具体的には、コートランド社のコブラ30Lbやプライオン40Lb、また、素晴らしい伸縮性としなやかさを誇る独製のシュナイダー45Lbなどが挙げられる。シュナイダーは非常に入手が難しいが……。

 アトランティック・ブルーマーリンやブラックマーリンと同様に、ホワイトマーリンを初めてフライでキャッチしたのもビリー・ペイトであった。ウエイトは80Lb(16Lbティペット)。1975年9月、ベネズエラ、ラ・グアイラ沖でのことである。なお、この記録はペイト自身が1996年9月に更新している。ちなみに重量は104Lb6oz(47.36kg)で、現IGFA記録である。

 その後、84年9月22日には、同じくラ・グアイラ沖で73Lbのホワイトマーリン(8Lbティペットクラス)がフロリダのパット・フォードによってキャッチされ、88年11月17日にはアンドリュー・マクグラスが12Lbティペットクラスによって74Lb8ozをキャッチした。共に現在の記録は更新されているが……。私自身、約60Lbのホワイトを16Lbティペットクラスでリリースしているが(90年10月23日、ラ・グアイラ沖)、いずれにしてもペイトの記録には及ばなかった。
 ビルフィッシュの中で唯一パシフィック・ブルーマーリンだけが長い間フライロッダーには手の届かぬターゲットであった。これには2つの理由がある。パシフィックブルーのウエイトは平均して重く、とてもフライロッドでは扱い切れないというのがひとつ。もうひとつは、ブルーの魚影が濃いエリアが非常に限られているという点である。ここ数年の間に私は3尾のパシフィック・ブルーマーリンを掛けているが(場所はそれぞれメキシコのマサトランとカボ・サン・ルーカス、パナマ)、いずれもキャッチには至っていない。この3カ所は150〜250Lbのパシフィック・ブルーマーリンが多く、最も可能性の高いエリアと言えるだろう。
 ハワイ島在住のマイク・サカモトは、ティム・グレナンのデザインによるプロトタイプの#14ロッドを使用して、すでに206Lbのパシフィック・ブルーマーリンをキャッチしている。だが、フライをトローリングするという方法を使ったためにIGFAを記録としては認定されていない。(IGFAルールには、アングラー自身によるリトリーブ以外に、たとえばトローリングなどによってフライを引いてはならない、とある。すなわち、ボートのエンジンは完全にニュートラルになっていなければならない。)使用したフライは、「バグ・レディー」と呼ばれるサカモトのオリジナルで、マスタッドの10/0フックに、サーフボードのフォーム材で形成されたボディーがついている。そのマーリンをキャッチするまでには数時間を要したが、彼は確かにやり遂げたのである。IGFAレコードにはならなかったものの、それが可能だということを実証したのだし、何よりも、それはフライロッドによってキャッチされたパシフィック・ブルーマーリンなのだ。

世界で初めてフライでパシフィック・ブルーマーリンをキャッチしたハワイのマイク・サカモト。ウエイトは実に206Lbであったが、IGFAルールによるものではなかったため、公認記録としては残っていない。

グランダーを求めて

 こうした記録の殆ど(サカモトは別だが)は通常の#12-13グラファイトロッドによってキャッチされているが、今後の主流は「リフティング」フライロッドとも言うべき新しいタイプのものになるだろう。事実、ケネディー・フィッシャーやセージ、ルーミスといった各ロッドメーカーは、20Lbティペットを使って記録を狙うフライロッダーのために、そういったロッドの開発を進めている。
 フロリダ在住のフライロッダー、ルーファス・ウェイクマンはセイルフィッシュの世界記録を2つも持っていた。ひとつは88年6月26日にセネガルでキャッチした65Lb9ozのアトランティック・セイルフィッシュ(12Lbティペットクラス)。もうひとつは89年2月1日にコスタリカでキャッチした76Lb12ozのパシフィック・セイルフィッシュで、こちらはなんと4Lbティペットによる記録であった。


 パシフィック・セイルフィッシュに関しては、この年(89年)もう2つの世界記録が達成されている。8Lbティペットクラスで98Lb4ozのセイルをキャッチしたジム・ワットはビリー・ペイトの記録を見事に塗り替えた。場所はコスタリカのバヒア・ペズ・ベラである。また、長い間破られなかったボブ・スターンによる16Lbティペットクラスの記録を塗り替えたのは、日本の丸橋英三だった。89年7月21日、場所はコスタリカ。ウエイトは実に124Lbだった。丸橋のこの記録は現在もIGFA世界記録の座を保っている。
 なぜ、その2〜3年の間に、それほど多くの記録が新たに更新されたのか? これには2つの理由が考えられる。ひとつ明らかなのはタックルの改良である。もうひとつは状況の変化だ。つまり、フライによるビルフィッシングそれ自体が、雑誌などによって多くの人々に知られるようになったということだ。

パシフィック・セイルフィッシュ16Lbティペットクラスの現世界記録保持者はエイゾー・マルハシ(右)。写真は記録を樹立する2年前の90Lbのパシフィック・セイル。

 ウィンストン・ムーアや故ハリー・カイムといったパイオニア的存在はたしかにいたのだが、彼らの存在やその行為は決して有名ではなかった。記録を達成するということに関心を示す者は皆無だったし、雑誌上で彼らが紹介されることもまたなかったのだ。おそらくムーアなどは生涯で100尾以上のセイルフィッシュをキャッチしているはずで(そのほとんどは50年代である)、ハリー・カイムにしろ少なくともその半分は釣っている。カイムはオールラウンドなソルトウォーターアングラーで、マーリンやセイルフィッシュの他にもドラド(シイラ)やイエローテイル、ルースターフィッシュ、ターポンなどを幅広く釣っていた。彼はコルテス海で何尾かのストライプト・マーリンを掛けているが、フライロッダーが200Lbオーバーのマーリンをランディングできるチャンスは非常に少ないだろうと話してくれたことを今でも鮮明に覚えている。パイオニアたちが使っていたリールは、フィンノール#4やシーマスター、ビリー・ペイトのターポンモデルといったスタンダードなターポン用のものであった。ラインキャパシティーにしても、90ftのフライラインの他に30Lbのダクロンが400ヤード巻ける程度のものだったのだ。
 しかし、その後のビルフィッシュ用のフライリールは驚くべき変化を遂げている。30Lbのバッキングを600ヤード巻くことができ、滑らかなアンチリバース・ドラッグを誇るマーリンモデルがビリー・ペイト・リール(設計はテッド・ジュラシック)から発売されると、次にはカリフォルニアのスティーブ・エーベルが30Lbのバッキングを900ヤードも巻けるエーベル#5ダイレクト・ドライブを発表した。私は両方のリールを使用してビルフィッシュを実際にキャッチしているが、いずれも実に素晴らしいリールであった。その後発売されたフィンノール#5アンチリバース(30Lbバッキングを750ヤード巻ける)もまた非常に優れたリールだ。
 この分野のフライラインについては、もはや心配無用である。ターポン用ラインなど一連のソルトウォーター用フライラインですでに実績のあるコートランドやサイエンティフィック・アングラーズ3Mでは、現在ビルフィッシュ用ラインも開発している。テストでは約45Lbの強さが実証されている。
 耐塩水のリーダー・マテリアルやモノフィラのランニングラインについても現在は製品が豊富である。ソフトタイプ、ハードタイプともに豊富なので、ティペット用やショックリーダー用というように用途別に選べる。個人的にはメイソンのモノフィラメントをクラスティペット用に使っている。これは非常にハードなラインで、傷などにも強い。
 かつてビルフィッシュ用のコマーシャルフライがなかった時代には、大抵のビルフィッシュ・フライフィッシャーたちは自分でフライを巻いていた。現在スタンダードパターンとして定着しているダブルフックのビルフィッシュ・ストリーマーは、もともとビリー・ペイトの考案によるものである。現在では、そのストリーマーもショップで手に入れることができる。この釣りにおいて、ノットは非常に重要な意味を持っている。どのノットを使うかは実に迷うところだが、100%の結束強度を発揮するノットはそう多くない。
 最後に少し考えてみよう。近い将来、我々フライフィッシャーがランディングできるかもしれないビルフィッシュの大きさと、その可能性についてである。ロッドやリールといったタックルの改良や、20Lbティペットクラスの導入によって、ランディング可能な魚のサイズは上がるだろうか?
 予測は人によりまるで異なるだろうが、私自身はそんなに遠くない将来300〜400Lbクラスのマーリンがキャッチされると確信している。なぜか? おそらく、ロッドのパワーは飛躍的に向上するはずだし、リールのラインキャパシティーはすでにかなり満足のいくものだ。そして、何といっても20Lbティペットは極めて強い。
 我々を奮い立たせるに充分な実例もある。これはフライフィッシングではなく、コンベンショナル・タックルによるものだが、オーストラリアのピーター・メイフッドは20Lbクラスで476.73kg(1,051Lb)のブラックマーリンをキャッチしているのだ(1976年)。
 これを聞いて、フライフィッシングによる可能性に期待するのは、はたして見当違いであろうか……。
 セイルフィッシュもしくはマーリン用として販売されているロッドのうち、実際にビルフィッシュとやり合える強さを持っているフライロッドはほんの10%にすぎない。これは悲惨な数字だ。なにしろ、#12〜14のフライロッドを使っても、100Lbのビルフィッシュを引きあげることができないのだから。たしかにキャスティング性能に関しては文句なしかもしれないが、だからと言って、ビルフィッシングに向いているとは言い難い。

ロッドの強さ=ティペット強度?

 ビルフィッシュ用のフライロッドについて私が疑問を抱き始めたのは、コスタリカで開催された第1回インターナショナル・ビルフィッシュ・フライフィッシング・トーナメントに出場した時のことだった。友人がナイスサイズのセイルフィッシュをバラしたのを見て、ビッグフィッシュ用として売られている#12〜14ロッドではビルフィッシュにはとても太刀打ちできないのではないかと考え始めたのである。
 そこで、私は市販されている9本のフライロッド(いずれも#12〜13)を使って、ある実験をしてみることにした。(科学的な方法とはとても言えないが……)まず、7.5kgつまり15Lbまで計れるバネ計りを用意し、一方をフライラインに、もう一方をどこかしっかりした物に固定する。それから、ロッドを持って上に上り、ロッドが折れる限界まで引っ張ってみるのである。この結果、4本のロッドが見事に!? 折れてしまった。
 テストしたロッドには、セージ、グラファイトUSA、フィッシャー、オービス、ディアフィールド、フェンウィックなどが含まれている。その中で、ハカリが8Lb以上の数字を示したのは唯一フェンウィックだけであった。他のほとんどのロッドは、6〜8Lbの間で限界に達した。だが、そのフェンウィックにしろ、理論的に言えば、最大ティペット強度の16Lbまで決して折れてはならないはずなのだ。しかし、それらのロッドが現実的に機能しないかと言えばそうではない。いずれも素晴らしいロッドである。事実、私はそれらのロッドを使って91年のインターナショナル・ビルフィッシュ・フライフィッシング・トーナメントに優勝しているし、4種のマーリンと両洋のセイルフィッシュも釣っている。折ったロッドの数よりも、釣ったビルフィッシュの数のほうが多いのだ。とはいえ、それらのフライロッドがビルフィッシュ用と呼ぶに相応しいほど本当に強いのかどうか、私は疑問を抱かずにはいられない。そう感じているのは、私ばかりではない。実にたくさんのロッドデザイナーやビルダーたちが、私と同じ意見を持っているのだ。

どちらを選ぶか? キャスティング性能とリフティング・パワー

 こうした問題が急浮上したのは、91年の4月、IGFAが新たに20Lbティペットクラスを導入してからである。16Lbの強ささえ持っていないロッドに、新しく20Lbを加えても無意味なのが目に見えている。
 わずかではあるが、すでにこの問題に気づいていたメーカーもあった。たとえば、フィッシャーがそうである。91年11月、メキシコのマサトランでジョー・フィッシャー(フィッシャーロッドはジョーと兄弟のジムとで製作されている)は#14と#18のロッドでセイルフィッシュを狙っているが、それを機に、フィッシャーロッドでは、20〜30Lbのデッドウエイトを持ち上げることができ、しかもキャスティング性能を損なわない8&1/2ftの2ピース、3ピースモデルを製作し始めている。他のメーカーのブランクを長年に渡り製造してきたフィッシャーだが、成功の秘訣はスピゴットフェルールとウェッジの組み合わせによってロッド全体を強化した点である。フィッシャーの新ラインナップ「ブルーウォーター」シリーズは、バルキーなノットをスムーズに通す大口径のガイドと、アッパーグリップ、ヘビーデューティーなリールシートを備えている。
 オーストラリアの有名なロッドビルダーであり、ビルフィッシングのライトタックルの主唱者イアン・ミラーは、フィッシャーのフライロッドを「価値あり」と認めている。「最近市場に出回っているロッドブランクはほとんど見ています。最近のロッドには大きく2つのトレンドがありますね。つまり、セージ・タイプとフィッシャー・タイプです。個人的にはフィッシャーのスタイルが好きですね。というのも、セージはあくまでもラインを運ぶことに重点を置いたキャスティング・ロッドなんです。ビルフィッシュとのバトルにそういったスタイルが適しているとは思えません。特に太いティペットを使う時にはね。第一、ビルフィッシングでは、それほど遠くへキャストする必要はないでしょう。」


 1本のフライロッドをターポンとビルフィッシュで兼用するという考えにはやはり無理があるということが、しだいに明らかになってきている。ビルフィッシュをフライで狙うアングラーにとって、興味の対象はキャスティング性能ではない。なぜなら、キャストしなければならない距離は、せいぜい20〜30ftにすぎないからだ。さらに、#12〜15WFシンキング・シューティングヘッドを使ったキャスティングは、見た目には不格好でさえある。実際には、トランサム後部の水中から巨大なダブルフックのビルフィッシュ用フライを抜き上げ、1回のバックキャストでそのままシュートする。正確さは大した問題ではない。重要なのは、100〜150Lbもあるビルフィッシュを海から引き上げられるだけのリフティングパワーなのである。
 ティム・グレナンのデザインによるフェンウィックの#14ロッド8014は、いわばロングセラーである。私自身も愛用していて、2尾のマーリンをそれでキャッチしている。かつての名品HMGロッドを再生産するという噂は聞くのだが、8014を強化するという噂は聞かない。20Lbティペットクラスが導入された今、マーケティングの戦略としても悪くはないと思うのだが。

筆者が選んだビルフィッシュ用フライロッド・ベスト4。上から、Gルーミス・オフショアビルフィッシュ#13〜15。セージ1390RPL-X#13。フィッシャー・ソルトウォーター#14〜18。フェンウィック8014#14。

ティペット強度以上の強さを持つロッドの利点

 ジョー・フィッシャーの他にも、フライによるビルフィッシングの未来を考えているロッドデザイナーはいる。ルーミスのスティーブ・レイジェフとセージのドン・グリーンである。ロッドデザインのエキスパートであり、キャスティングのワールドチャンピオンでもあるレイジェフは、1991年のインターナショナル・ビルフィッシュ・フライフィッシング・トーナメントにおいてトータル10尾のセイルフィッシュをキャッチして優勝したワット夫妻に、新型の8&1/2ft#13、2ピースロッドをプレゼントした。
 そのロッドは22〜23Lbのデッドウエイトを引き上げることが可能なのだが、他にも4ピースモデルがある。同じIMX素材を使用したそのロッドは、#12で20〜21Lbのデッドウエイトをリフトすることができる。飛行機での遠征釣行をするビルフィッシャーやターポンアングラーには嬉しいニュースだ。さらにルーミスでは、IGFA承認のティペットクラスにこだわらないフライロッダーのために、50Lbものデッドウエイトを引き上げることができるロッドを開発中である。たとえば、オーストラリアのフライロッダーからは、ドッグトゥース・ツナ(イソマグロ)のように歯が鋭く、深く潜る大型魚を釣るためのロッドを作ってほしいとの要望があるそうだ。そういったアングラーは30Lbティペットを用いた大型魚とのバトルそのものを楽しみたいのだ。
 だが、20Lbのデッドウエイトをフライロッドで持ち上げるのは並大抵のことではない。信じられないなら試してほしい。大柄のレイジェフでさえ、バットを下腹で支えるようにして片手をコルクグリップに固定させ、もう片方の手を少し上の部分にあてがってゆっくりとリフティングするくらいだ。
 ロッドが8&1/2ftに決まった理由を聞くと、キャスティング性能とリフティングパワーという相反する要求の間で見いだされた妥協できる限界の長さだとレイジェフは答えた。

ティペット強度以下の強さを持つロッドの利点

 セージでロッドデザイナーを務めるドン・グリーンも、ビルフィッシュ用ロッドには、8&1/2ftの長さが最も実践的だと言っている。もっとも彼の場合、ロッドの継ぎ数では意見が分かれるが……。
「私たちは3ピースロッドの可能性を実験しています。というのも、3ピースでは最も負担のかかるロッドの中央部にフェルールがないからです」
 どうやら、セージは方向転換を図っているらしい。ビルフィッシュ・フライロッダーの私にとっては嬉しい限りだ。グリーンによれば、30Lbや40Lbのデッドウエイトをリフトできる2ピースまたは3ピースのロッドは製造可能だと言っている。だが、ロッドは使用ティペットの強度分よりも強くあってはならないというのがグリーンの理論である。これまでは16Lbティペットがその目安だったが、新しいティペットクラスの導入によって、それは必然的に20Lbに引き上げられた。つまり、現在グリーンがデザインに取り組んでいるのは、18〜19Lbのデッドウエイトを持ち上げられるロッドなのである。16Lbのリーダーを柱などに結わえつけ、#12〜13フライロッド(どのメーカーのものでも構わない)で一定の力をかけていくと、初めにブレイクするのはティペットではなく、ロッドである、という私の考えにはグリーンも賛同している。
「確かに、その通りです。でも逆に17Lbのデッドウエイトを持ち上げてしまうフライロッドでは、ティペットが先にブレイクしてしまいます。これはロッドを設計する際の私の理論なんです。もし16Lbのティペットを使うのであれば、ロッドのリフトパワーはそれ以上であってはならない。強いロッドはリーダーブレイクの原因になるだけですから」

新たな表示方法が必要なのか?

 この手のロッドに関して言えば、ロッドのクラス分けは、ライン重量だけでは不充分かもしれない。たとえば、DW(デッドウエイトの略)-8とかDW-14といったように、どれだけのデッドウエイトがリフトできるかを一目瞭然にする必要がある。特に、IGFAルールに従ってビルフィッシュを狙うフライロッダーにとっては重要なことだ。
 ただし、ティペット強度に関係なく、とにかくフライロッドでビルフィッシュを釣ろうというアングラーについてはこの限りではない。たとえば、ソルトウォーター・フライロッダーとして著名なハワイのマイク・サカモトがそうだ。彼は世界で初めてパシフィック・ブルーマーリンをフライでキャッチしているが、これは大型ポッパーのトローリングによるものだ。ロッドはフェンウィック8014、リーダーはIGFAルールに準じたものではなかった。サカモトはワールドレコードを照準にせず、ブルーマーリンをキャッチするという行為そのものに的を定め、現実としたわけである。当然のことだが、ロッドの製作過程においては、どのメーカーでも内部機密があるだろう。新分野であるソルトウォーター用フライロッドの製作に興味を持っているロッドビルダーは少なくない。他人にすべてを語ってしまうという軽はずみなことはしないだろう。だが、いずれにせよ、そういった思いのひとつひとつが、20Lbティペットクラスの導入と結びつき、結果的にビルフィッシュ用のより優れたフライロッドが完成されればと願うばかりだ……。



筆者紹介/
ジャック・サムソン(JACK SAMSON)

「フィールド&ストリーム」誌の前編集長。現在は「マーリン」誌のフライフィッシング部門、及び「フライロッド&リール」誌のソルトウォーター部門の編集を担当。ソルトウォーター・フライフィッシングの洗礼を受けたのは60年代半ば。ボーンフィッシュ、パーミット、ターポンといったフラットの釣りから始まり、やがてシイラ、キハダ、ビンナガ、オキサワラといったオフショアの魚までカバーするようになる。ビルフィッシュに取り憑かれたのは、1972年のトーナメントがきっかけ。フロリダキーズ沖でアトランティック・セイルフィッシュをキャッチした後、83年にはジャマイカ沖で43Lbのアトランティック・ブルーマーリンを上げる。アトランティック・ブルーをフライでキャッチしたのは世界で2人目。85年にはコスタリカにて105Lbのパシフィック・セイルフィッシュをキャッチ。続いてメキシコのマサトランにて131Lbのストライプト・マーリンを射止める。89年の第1回インターナショナル・フライフィッシング・トーナメントでチーム優勝。91年にはオーストラリアにて50Lbのブラックマーリンをキャッチ。同年10月にはベネズエラで60Lbのホワイトマーリンをキャッチ。両洋のセイルフィッシュと4種類のマーリンをフライでキャッチしたのは、ビリー・ペイトに次いで2人目。88年8月にコスタリカにてキャッチした31Lb12ozのルースターフィッシュ(16Lbティペットクラス)は世界記録。著書に「ソルトウォーター・フライフィッシング」がある。

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