ゲームフィッシング紀行

黒潮洗う本州最南端の町・串本(1)

リポート/錆浦海中公園研究所・宇井晋介
(チーム・スプラッシュ)


 和歌山県の串本町は、黒潮が本州に最も接近する場所であり、本州の最南端に位置する。暖かい黒潮の影響を受けて年間を通して温暖で、海岸のあちこちに亜熱帯性植物が茂る「常春の国」である。海に目を移せば、南からやってくる黒潮と沿岸水が激しくぶつかり合い、豊かな漁場を形成している。しかも、そのような関係で、北の魚と、南の魚が同時に見られる。ライトタックル派にはなじみの深いギンガメアジやロウニンアジ、カスミアジといった南の主役達も豊富に見られる。
 串本はまたハワイから伝わったトローリング、いわゆる曵き網漁が日本で初めて始められたところとしても知られる。この漁法は現在ケンケン漁としてこの地に伝わっており、今や全国に広まっている。ケンケン漁は主としてカツオを対象とした漁法であるが、その他にもキハダマグロ、クロマグロ、メバチ、ビンナガそれにメカジキやクロカジキ等がその対象となる。
 これらは全て我々スポーツアングラーの好敵手ばかりである。漁業者にとって豊かな海は、我々スポーツアングラーにとっても「豊饒の海」なのである。
 
ショアーフィッシング

 串本周辺のフィールドを図-1に示した。串本のフィールドでは、荒々しい磯、波静かな湾、砂浜、そして清流が流れ込む河口のいずれの景観も見られるが、最も串本を代表するフィールドといえば、やはり大平洋からの荒波に削り出された荒々しい磯である。
 串本周辺の海岸の大半は「磯」であり、中でも特に潮岬と大島の南岸は、男性的な荒々しい岩壁がそそり立つ荒磯である。この辺りの磯は高さが数10mにも及び、険しい場所も数多い。いずれの磯でもイシダイやイシガキダイ、メジナ、クロメジナ、その他、クエやフエフキダイ、マダイといった根魚、カンパチ、ヒラマサ、シマアジ、ブリといった回游魚まで、磯の対象魚はほとんど見られる。
 また時には磯からカツオ、シイラといったオフショア・フィッシングの対象魚すら釣れてしまうことがあり、黒潮の恵みを受ける釣り場らしい。
 潮岬や大島の南岸の磯が男性的な荒磯なのに対して、同じ潮岬や大島の北岸や串本からすさみ町の境までの間、あるいは古座川の河口周辺等は、どちらかといえば女性的ななだらかな磯が多く見られる。
 また、すぐ近くにはアユで有名な清流古座川が流れ込んでおり、この河口は、スズキやヒラスズキ、クロダイ等の釣り場として関西ではつとに有名な所である。こうしたバリエーションに富む釣り場が、けっして広くはない地域に混然一体となって集まっている町、それが串本の魅力である。



ヒラスズキ

 ヒラスズキは紀伊半島や伊豆半島あるいは四国の足摺岬や室戸岬のように、黒潮の影響の強い半島や岬など、陸地の突端部に多く棲んでいる。串本はこの紀伊半島の突端部にあるので、当然ヒラスズキが多く生息している。しかし、ヒラスズキの狙える場所は、串本でも割合に限られている。
 ヒラスズキは良く似たスズキが割合に波静かな内湾や河口等を好むのに対し、どちらかと言えば、波の強い外海に向かって開けた磯が主なすみ家である。串本周辺でこうした磯といえば、潮岬のぐるりや大島の南岸、高富から和深にかけての磯、古座川から那智勝浦町にかけての磯である。これらはいずれも開けた磯で、水の停滞がない潮通しのよい磯である。あるいは普段は波のない穏やかな磯でも、波が立つと良いヒラスズキの釣り場に変身するという釣り場も多くある。串本周辺の中では、潮岬や大島の南岸はどんな天候でも、割合にコンスタントに釣果が得られる場所で、その他の場所は風向きや波の立ち方によって、良否が分かれやすい場所といえる。


 串本でのヒラスズキのシーズンは、普通10月から翌年の4月くらいまで。もちろん多少のずれはあるし、夏場でも釣れることはある。でも3〜4月がヒラスズキの産卵期なので、この時期を控えたヒラスズキは体調も万全で、グッドコンディションのものが釣れるわけである。逆にこれ以降のものは、産卵の疲れでパワーもなく、お腹が大きくへこんでいて、シーズン中のものの足元にも及ばないコンディションである。

串本周辺にしては小型サイズのヒラスズキであるが、プロポーションは抜群。

 ヒラスズキは「サラシを釣れ」と言われるが、ここ串本でもそれはたいていの場合当てはまるようである。串本では冬のヒラスズキのシーズンになると、天気の良い日には北西風あるいは北東の季節風がよく吹くが、低気圧が接近すると、南西からのうねりが入ってくる。天気図をよく見て、当日の風の方向、波の方向、大きさ等を推察してみることである。そしてそれによって釣り場の状況を推察してみる、つまりシミュレーションである。磯までの距離が遠く険しいので、やみくもに走り回っていると時間ばかりかかって釣果はあがらない。その時々の風や波の状況を判断して、効率のよい釣りを心がけることが成功への近道である。もっとも「ヒラスズキは足で釣れ」と言われるほど、待っていては釣れない釣りである。適確な状況判断による効率の良い移動と行動力が伴わなくては、いくらヒラスズキの宝庫串本でも型を見ることは難しい。

メッキ

 メッキと一口に言うが実はこの名、ある特定の魚の名前ではない。メッキとは、ギンガメアジやカスミアジ、ロウニンアジなどいわゆるヒラアジ類の幼魚の総称で、本来は関西地方における地方名である(ところによっては、メッキアジと呼ばれることもある)。


 海でのゲームフィッシング(この場合ルアーフィッシングに限らせてもらう)というのは、実際最初はなかなか釣れないものである。湖のバス釣りのイメージで入って来て、最初の一尾がなかなか釣れず、またバス釣りへ戻って行く人も多くいる。その点このメッキゲームは初心者でも場所とタックルさえ間違わなければ、ほぼ間違いなく素晴らしいゲームを楽しむことができる。その点でヒラスズキとはまた違った面がある。
 ただ、残念ながら日本全国どこにでもいるわけではない。メッキはヒラアジ類の幼魚と書いたが、このヒラアジ類、日本で多く見られる所はごく限られている。最近多くの釣り雑誌で紹介されるのでご存じの方も多いと思うが、これらヒラアジ類の主な生息域は日本ではいわゆる沖縄や小笠原に代表される南の島であり、暖かい熱帯地域である。
 ではどうして寒い冬のある日本の海にその幼魚達がいるか。それは黒潮の贈り物である。南の海で生まれたヒラアジ類の子供達は、黒潮にのって遥か北の日本の沿岸にたどり着くのである。ところがその後のことはさっぱり分かっていない。一般にはそのまま死んでしまうという説が有力で、無効分散という難しい言葉があてられているが、もしかするとまた南の島へ帰って行くのではないかという考えも捨て切れない。まったくもってミステリアスな存在なのである。
 このメッキ達、日本の黒潮の影響を受ける海域のいたる所に出現する。良く知られている所は、九州南岸、四国南岸、紀伊半島等である。しかし、いつぞやは東京湾にも多く出現して話題を振りまいたこともある。この出現範囲などは、未だ未解明であるが、その生態から見て黒潮の流れに大きく左右されていることは確かである。一概には言えないが、年の春から秋にかけて黒潮が接岸傾向にあり、冬が暖かい年は、常識的に考えてよく釣れる年になる可能性が高いと考えて良さそうである。

 串本の海には毎年夏が終わるころ姿を現わし、翌年の1月ごろまで釣れる。また水温の高い年では、3月ごろまで釣れることもある。しかし、不思議なことにこの越冬した個体もやがて春の訪れとともに姿を消してしまう。また時として真夏に突然大型の個体がまとまって捕れたりもする。あるいはアユやアマゴが棲んでいる河川の上流域で餌を追っていたりすることも稀ではない。私がかつてルアーで釣り上げたものは、なんと河口から20km以上も上流のアマゴの棲息域であった。様々な角度から見てみると、実に不思議な存在である。
 串本周辺で見られるのは、その大半がギンガメアジの幼魚である。串本付近では、大体8割以上がギンガメアジ、残り2割がカスミアジ、ロウニンアジである。大きさは大きいもので約30cm位である。もっとも釣り場によっては、50cm以上が釣れる場所もあるが、残念ながら串本ではそれほど大きいものは釣れない。もっともこれだけ大きいものはメッキとは呼べないだろう。

 しかし大きさは小さくても生まれついての肉食魚、ルアーに対する反応には目を見張るものがある。条件さえ良ければ水面を曵くトップウォータープラグにもガンガンアタックしてくる。しかもパワフルなヒラアジ類の子供だから、そのファイトも抜群。タックルをライトにして狙えば、ゲームフィッシングの楽しさが存分に味わえる。

 これらメッキの釣り場はあまり知られていないが、特別な所でなく実はごくありふれた場所にある。港内の防波堤、河口などである。串本周辺でも大体そうした所が、ポイントとなっている。イワシやアジなどの小魚が良く見えるような所は大体好ポイントだ。それらの餌を追って、メッキが集まっているからである。メッキはスズキやヒラスズキのように、あまり人影を恐れたりしない。だから意外なところが好ポイントとなり得るのである。
 ところでこのメッキ、先に数種類全てを含む名前だと言ったが、この代表的な3種は実に良く似ている。それでその名前や区別の仕方についてよく質問される機会が多い。そこで代表的な3種について、釣り場ですぐできる簡単な区別の仕方を図示してみた(図2)。大体はこの簡略な方法で区別できるが、もっとも詳しくという人には別図を見ていただきたい(図3)。

 ロウニンアジとカスミアジ並びにギンガメアジでは、胸部の鱗の状態に決定的な違いがある。つまり、ロウニンアジではこの部分に鱗のない部分があるのに、他の2種では完全に鱗に覆われているのである。ただこの鱗は、そのまま眺めただけではなかなら分かりにくいので、爪の先やフックの先などで軽く「逆なで」してやると、その有無を確かめることができる。この方法を併せて用いれば、まず同定の間違いはないだろう。釣り場では少々不便だが、記録の申請等に当たっては、この方法で確実を期したほうが良いだろう。
 メッキは先に述べたように未解明な部分が多い魚である。それでJGFA(ジャパンゲームフィッシュ協会)ではこのメッキをタグ&リリースの対象魚として積極的にタグ&リリースを行なっている。釣って食べるのも良いが、JGFAに入会してそんな謎の部分にロマンを求めるのもまたゲームフィッシングの楽しみ方の新しい方向だろう。

ブリ(ハマチ)

 串本の近海では毎年10月の声を聞くと、沖合でブリ釣りが始まる。沖にある深さ60mほど根の周辺に船を止め、オキアミやサンマの切身等を餌にした釣り方で狙う。大量の撒き餌を使う、いわゆる「飼い付け漁」である。この釣りでは、ブリの他にもヒラマサ、マダイ等が釣れるが、大きさも岸から釣れるものより数段大きい。
 ショアーフィッシングではこの方法で釣れるほど大きなものを狙うのは難しいが、秋磯等ではブリと言えるサイズのものも釣れる。また、潮岬、大島周辺の沖磯では、ヒラマサやカンパチも狙える。ハマチサイズのものであれば、あちこちにポイントはあるが、中でも手軽なのが通称浅海と呼ばれる串本と大島に隣接する小島苗我島(みょうがじま)をつなぐ長大な防波堤である。この防波堤では実に様々な魚が釣れるので、年中多くの釣り人で賑わっているが、秋から冬になると、ここにハマチが回遊してくることが多い。もっとも必ずというわけではないが、イワシやアジ、サヨリ等の群れが見える時には群れが回遊してきている可能性が高い。
 どの釣り場でもルアーは、群れが近ければシンキングタイプでファストリトリーブに耐えられるミノータイプが万能で、群れが遠ければジグが良い。
 また時にサヨリ等についている場合があるが、こうした時は常に水面で摂餌しているので、トップウォーター・ルアーしか追わないことがある。ブリの活動時期は夜明けあるいは日の入りのいわゆる「マズメ時」である。こうした時間には小魚を追ってのボイルが多く見られる。昼間は水深のある所に回遊していってしまうので、ショアーからのキャスティングではこの時間を外さないことがポイントとなる。
 串本でのルアーのショアーフィッシングでは、このほか、カサゴ、ハタの仲間、エソ、ヒラメ、ダツ等が狙えるが、まだそれらを狙うアングラーは少なく、これから開拓してゆきたい。



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